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  • 万物の黎明~人類史を根本からくつがえす~

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万物の黎明~人類史を根本からくつがえす~

5つ星のうち4.4 (158)

『負債論』『ブルシット・ジョブ』のグレーバーの遺作、ついに邦訳。「ニューヨーク・タイムズ」ベストセラー。考古学、人類学の画期的な研究成果に基づく新・真・世界史! 人類の歴史は、これまで語られてきたものと異なり、遊び心と希望に満ちた可能性に溢れていた。
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  • 出版社 ‏ : ‎ 光文社
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  • 発売日 ‏ : ‎ 2023/9/21
  • 言語 ‏ : ‎ 日本語
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  • カスタマーレビュー:
    5つ星のうち4.4 (158)

著者について

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デヴィッド・グレーバー
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カスタマーレビュー

星5つ中4.4つ
158グローバルレーティング
グレーバーは遺作も快作だった
星5つ中5つ
グレーバーは遺作も快作だった
なんせ大著(翻訳で本文593ページ)であり、脱線は多いし、扱う話題も多岐に渡るので要約は難しいのですが、「私は今、とんでもない本を読んでいるのではあるまいか」という気分が読み終わるまで続きました。 いちばん簡単な要約は「この数十年間に発見された考古学資料から人類学者と考古学者の二人(のDavid)が、人類史を語りなおす」です。その過程で、ユヴァル・ハラリやジャレド・ダイアモンド、スティーブン・ピンカーなどの人気作家が描いてみせる「通説」を片端からひっくり返していく訳ですが、そうした作業の前に我々の人類史観というものが、ルソーの「人類は昔、少人数で幸福に暮らす採集民族だったが、農耕の開始とともに所有が始まり、国家が生まれて人類は不幸になった(実は「失楽園」物語の近代版)」というものか、ホッブスの「人類はもともと互いに争い合う状態だったのが、社会契約によって文明化して都市を築き国家を作った」というものか、どちらかに縛られており、そこから離れて人類史を見直そうという呼びかけから始まります。 農耕以前から人類が大規模な集落を作っていたこと、農耕は私有財産の誕生とはなんの関係もなかったし、農耕で不平等が始まった訳でもないこと、階級がみられない都市遺跡も発掘されていることを二人のDavidは示し、南北アメリカ、西南アジア、ヨーロッパ、アフリカ(その他、日本の三内遺跡を含む世界各地)の考古学遺跡や文化人類学の民族誌を比較参照しながら、人類はありとあらゆる社会形態や政治形態を行ったり来たりし続けてきたのだと力説し、狩猟採集民→農耕の開始→都市と国家の発生といった従来の進歩史観(ルソーの場合は堕落史観)がまったく役に立たないことを描き続けます。 この大著の中で繰り出される世界各地の考古学資料と民族誌は多岐に渡り、追いかけるだけでも大変なんですが(ほとんどランダムとも思えるほどに、地域や民族が飛び移っていきます)、そこに「アメリカ北東部原住民の情報が刺激になってヨーロッパ啓蒙主義が生まれた」みたいな物議を醸しそうな箇所もあって(実際、この本で一番批判された箇所らしいです)、なかなか一筋縄ではいきません。しかもこの箇所はとても面白く、第2章と第11章で語られる「原住民知識人」カンディアロンクの話だけでも一冊の本になります。そして「そもそも所有とは何なのか」、「自由とは何を意味するのか」「なにをもって平等/不平等というのか」みたいな議論も入ってきて、知の迷路に入り込んだ気分にもさせられます。 人類は狩猟採集時代から平等主義で平和な社会もあれば、権威主義で暴力的な社会もあり、人々は様々な社会形態や政治形態を試行錯誤しながら行ったり来たりしながら(農耕も放棄したり、再開したりしながら)、あらゆる可能性を試し続けてきたのだというのが、著者たちの結論であり、我々もまだ実現していない社会の可能性について語ることが可能なのだというのが、この本の含意するところのようです。 最後に陳腐ですが、これがデビッド・グレーバーの遺作になったことがつくづく残念です。共著者のウェングローによれば、「三冊以上の続編」が計画されていたとのこと。それらを我々が読む機会は永久に失われました。改めてご冥福をお祈りします。
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日本からのトップレビュー

  • 星5つ中5つ
    大著であるが、相対化と自意識の排除の難しさを突き付ける名著である
    2024年7月16日に日本でレビュー済み
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    読了に2か月かかった。二段組600頁を超える大著で流石に疲れた。体調が悪いにもかかわらず、読んでいたのだが、それでも色々な思いがよぎり、あらゆる人類史を根底から批判し、あらゆる思考や学説を相対化する読んでいて気分が良い本と思った位だ。大著故に、他のレビューで長いレジュメを書き込んでいる人も見受けられるので、個人的な感想だけ書く。

    私は、ジャレド・ダイアモンド、ユヴァル・ノア・ハラリ、スティーブン・ピンカーらをポップなナラティブ人類史として、読みやすいが真実を告げていない、という予感めいたことをずっと抱いていたが、この本では私の思いを「よくぞ言ってくれた」という気持ちを持たせてくれた内容だった。

    本来人類には3つの自由がある。住処を移動する自由、服従しない自由、社会的つながりを再構築する自由。よく考えれば分かるが、これら全ての自由は国家の内部においては存在しない。従って、現代においてどうして閉塞してしまったのか、と著者らの疑問はここにある。

    特にグレーバーはアナーキストとしても有名で、ウォール街を占拠の活動に協力したなど、アメリカの学会から政治的圧力で追われ、最終的にはロンドン大学の教授だった。グレーバーの著書は面白いものが多く、現代は、無意味な仕事がなぜ生み出されるのかを述べた「ブルシット・ジョブ――クソどうでもいい仕事の理論」とか、負債が貨幣の起源であると述べた「負債論 貨幣と暴力の5000年」、アナーキストを決意させた思いを綴った「アナーキスト人類学のための断章」とか、グレーバーの著書は刺激がある。

    色々な人々が「グレーバー+ウェングロウ『万物の黎明』を読む 人類史と文明の新たなヴィジョン」で書いているので、あまり内容のことを書くことは控える。とにかく読んで欲しい本である。

    あらゆる著書を読むだけではなく、それを相対化したり、自意識を排除していくことの難しさと、思考することの困難さを同時に味わえる。人類は古くから民主的で「頭」のいない都市をいくつも生み出したり、神殿で追われたものを保護する仕組みを構築したり、仲間から追われたら別の集団で歓待する仕組みがあったりと、実は色々と世界中の人々は実践していたことが分かる。

    暴力、情報、カリスマ性に集約された存在が、国家なる閉塞した存在を生み出し、自由を奪い取っているのが現代だという。住処を移動する自由、服従しない自由、社会的つながりを再構築する自由とこの3つは日本でも存在した。

    住処を移動する自由…日本でも山岳を渡り歩いていた「サンカ」と呼ばれる人々がいた。戦後の段階でほぼ消滅したともいうが、明治大正には多くいたという。現代でも戸籍の無い人は割といるし実際のところは不明である。

    服従しない自由…現代でも文化圏を構築して国家統制に背を向ける少数民族がまだいる。

    社会的つながりを再構築する自由…これは集団で行動すると抗議であったり、テロ化するが、もっと柔らかい「文化圏」だったり、アーミッシュの様な集団もいることであるし、そういう再構築する自由はもっと考えても良いと思える。勿論カルト化はごめんである。

    デヴィッド・ウェングロウの日本語の著書はまだないが、考古学での中々骨太な著書もある様であるが、グレーバーの著書はとにかく1冊でも読んだ方が良い。目から鱗が落ちるはずである。

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  • 星5つ中5つ
    人類史観を覆す。
    2024年10月26日に日本でレビュー済み
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    この本はとても要約できる内容ではない。電子版で1000ページ超えであり、内容も多岐に渡っている。しかし、あえてこの重厚な内容を一言で言うならば、「我々の人類史観は正しいのか?」という問を再考するものだ。ホッブズ的な「万人の万人による万人のための闘争」で、人々が自由に狩猟活動などで生活をしていたが、農耕始まったことで余剰生産が生じ、そこにルソーの「人間不平等論」で言うような富の格差が生じ、それが階級差へと発展し、国家につながった。この考え方は確かに人類発展の考え方として一本道スッキリしている。しかし、本書ではこの考え方に疑問を投げかける。そして、数々の人類学的、考古学的証拠から、人類は思っていたよりも複雑に発展してきた事を本書では示す(遊戯農耕、分裂生成などなど)。

    気軽に読める内容ではないし、一度で全部を理解できる内容でもない。しかし、自分の中で人類に対する見方が変化するのを感じた一冊だった。

    49人のユーザーが役に立ったと感じています
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  • 星5つ中4つ
    『旧来の画一的で偏った人類史観を、ぶっこわーす!』した本
    2025年4月17日に日本でレビュー済み
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    ユヴァル・ノア・ハラリ、ジャレド・ダイアモンド、スティーブン・ピンカーなどが著したビッグ・ヒストリーの本を読むと、以下のような人類史観をよく目にする。

    ・旧石器時代の現生人類はボノボやチンパンジーに近い存在だった。

    ・旧石器時代の現生人類は自由で平等な生き物だった(か、暴力的で利己的な生き物だったか、のどちらかだ)。

    ・人間社会は、狩猟採集社会→農耕牧畜社会→都市商業社会の順番で発展し、最終的に国家を形成する。

    ・文明の発達によって人間は自由で平等な状態を失ってしまった。

    ・コムギが人間を家畜化した。

    ・農耕によって私的所有権や不平等が生じた。

    ・農耕を始めたことは人類史上最大の過ちだった。

    …etc

    万物の黎明は、こういった旧来の画一的で偏ったともいえる人類史観(著者らの言葉では「かなり陰鬱な歴史観」と表現されている)を反証し、著者らの想像力溢れる画期的な人類史観を提示した本といえる。

    この本の内容を大雑把に分類すると

    第3章〜第5章

    「狩猟採集社会から農耕牧畜社会へ」などといった人類史に対する誤った先入観を反証し、旧石器時代の現生人類が「季節的変異」と「政治的自己意識」によって様々な社会を構成していたことを提示するパート

    第6章〜第7章

    「農耕革命」や「農耕の導入によって私的所有権や不平等が生じた」といったことを反証し、農耕の起源は、農耕というよりは、「園芸や家庭菜園のようなもの」であったことを提示するパート

    第8章〜第10章

    「農耕革命で人口が増加した結果、それを管理するために国家が必要になった」「都市の出現には、国家、官僚機構、社会階級などが必ず伴っていた」といったことを反証し、支配を可能にする3つの基本的支配形態(暴力の統制、情報の統制、カリスマ性)を独自に導入して、それら3つの形態を組み合わせた混成体が国家であることを提示するパート

    に分類できる。

    また、個人的に面白いと思った章をピックアップするならば、「第2章」「第3章」「第6章」「第7章」をあげる。

    第2章

    第2章では、人類史に対する誤った先入観を払拭するための準備として、「不平等の起源とは何か」ではなく、「なぜ『不平等の起源とは何か』という問いが生まれたのか」を丹念に追跡している。「不平等に起源が存在するという前提」が、そもそも間違っていると著者らは主張する。

    歴史を紐解いていくと、自由や平等に関連した啓蒙思想は、西洋社会によって独自に生み出されたのではなく、15世紀の大航海時代から始まるアメリカ新大陸の先住民との対話・交流が大きく影響して生み出された、ということが明らかになる。

    また、このレビューのはじめに列挙したような人類史観は、先住民による西欧社会への痛烈な批判に対する反動として生まれた主張(またはその焼直し)だった、ということも明らかになる。戦犯テュルゴー君。

    第3章

    第3章では、現生人類の初期状態についての誤った先入観を反証してく。

    旧石器時代の狩猟採集社会が、平等主義的な小集団ではなかったことの証拠として、ロシアのスンギル遺跡、チェコのヴィエストニツェ遺跡、トルコのギョベクリ・テペ遺跡などを例にあげ、旧石器時代の狩猟採集社会には、ヒエラルキーや公共事業があったことを説明している。

    一方で、「氷河期社会における制度的不平等の証拠は、壮大なる埋葬やモニュメントな建造物にかかわらず、散発的なものである」ことから旧石器時代の狩猟採集社会はヒエラルキーのある階層社会ではなかったとも説明している。

    そして、この一見矛盾しているようにみえる事例に対して

    ・ナンビクワラ族が、雨季では園耕をし(平等主義的社会をつくり)、それ以外の季節では狩猟採集をする(権威主義的社会をつくる)といったように、季節の変化に応じて社会制度を交互に切り替える生活をしていたこと(レヴィ=ストロースによる1944年の研究成果)

    ・ロシアのスンギル遺跡、チェコのヴィエストニツェ遺跡、トルコのギョベクリ・テペ遺跡、イギリスのストーンヘンジ遺跡にも、ナンビクワラ族のように季節の変化に応じて社会制度を交互に切り替える生活をしていた証拠があること

    から、旧石器時代の現生人類も季節の変化に応じて社会制度を交互に切り替えていただろうという解釈を与えている。

    また、このような社会制度の切り替えは、季節的変異による一方的なものではなく、旧石器時代の現生人類が備えていた「政治的自己意識」に基づいて、社会の在り方の可能性を探る試行錯誤の一環として行われていたとも主張する。

    第6章

    第6章では、「農耕革命」や「農耕の起源」の実像に迫っていく。

    ・中東の肥沃な三日月地帯で、作物化される前の野生種が生育していることから、その野生種を作物化する再現実験を行うことができ、その結果、野生種の作物化につながる重要な遺伝子変異は、わずか20〜30年、長くても200年で達成できることを明らかにした研究

    ・中東の肥沃な三日月地帯で植物の作物化が完全に完了したのは、野生の穀物栽培がはじまって3000年も経過してからということを明らかにした研究

    これらのことから、「3000年とはいうのは、『農耕革命』というには長すぎるし、農耕にいたる過渡期状態とみなすにも長すぎる」と判断し、狩猟採集民は「この期間に栽培に手を染めてはやめ、やめては手を染める」をしていたと主張する。

    そのような行動を可能にする栽培方法として「氾濫農耕」をあげ、章の冒頭で紹介しているチャタルホユック遺跡で「氾濫農耕」が行われていただろうと主張する。

    氾濫農耕は、従来の農耕のような重労働がなく、また、毎年のように土地の状態が変わるので(ある年には肥沃だが、次の年には洪水や干魃にあう、地面そのものが動くなど)、土地の私的所有にはつながらなかったと考えられている。

    第7章

    第7章では、第6章での知見に基づいて、農耕がどのように普及していったのか(初期農耕人口がどのように拡大していったのか)、新石器時代の中央ヨーロッパ、アフリカ、オセアニア、南アメリカの熱帯地域についてみていく。

    気になったのは、初期農耕の失敗例として紹介されている中央ヨーロッパの例(暴力的な痕跡を残して共同体全体が消滅したと思われる)。

    これぞまさに、『10万年の世界経済史』や『格差の起源 なぜ人類は繁栄し、不平等が生まれたのか』で言及されていた「マルサスの罠」ではないかと思うなどした。

    元々の環境収容力がほぼ皆無のような狩猟採集生活できない土地で農業をはじめると、悲惨なことになるのだろう。

    このような例をみると、農耕の始まりは、「農耕革命」というよりは、「マルサスの罠の内で起こった技術進歩の一手段だった」とみなした方が良さそうに思える。

    所感

    旧来の人類史観に対する反証には納得できたが、著者らが提示する人類史観については確証が持てない(私は人類学や考古学の専門家ではないので、著者らの主張の正確さや厳密さを検証することができない)。

    また、人類学や考古学の知見をなにがなんでもふんだんにねじ込むことを最優先にして論を展開するような書き方をしているので、全章にわたって話がとっ散らかっていてわかりにくく、まとめにくかった。

    ということで、評価は星4つ。

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  • 星5つ中5つ
    かなりの読書力が要求されます
    2024年7月5日に日本でレビュー済み
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    非常に難しく、サピエンス全史や 銃・病原菌・鉄 のようにさらっとは読めませんが、とても興味深い内容でした。翻訳も素晴らしい。

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    西欧史観への異議
    2024年1月7日に日本でレビュー済み
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    備忘録。最近読んだ本。デビッド・グレーバー+デビッド・ウェングロー「万物の黎明 人類史を根本から覆す」。新刊。643ページ二段組、販売価格5500円の分厚い本書を年末から読みはじめた。約2週間かけて読了したものの、十分理解できた自信は到底ない。読み飛ばすことのできない面白さではあったが、文化人類学者グレーバーと考古学者ウェングローが10年以上かけたという本書には、詳細過ぎる事例や詩的表現(翻訳のためか)も多く、正直読み飛ばした部分もあるが、圧倒的パワーは十二分に伝わってきた。本書の内容をシンプルに言えば、次のようなことだ。

    人類の「先史」については文字記録がないこともあり、様々に書かれてる。特に近年は、歴史学者YNハラリ「サピエンス全史」「ホモデウス」、進化心理学者Sピンカー「暴力の人類史」、進化生物学者ジャレドダイアモンド「昨日までの世界」「銃・病原菌・鉄」などが人気だ。こうしたいわば「ビッグヒストリー」に(僕自身を含め)心踊らされた読者も多く、ブームと言っても良いほどだ。しかしグレイバーらは、本当にそうなのか、根拠が薄いのではないかと厳しく批判する。そして、経済学者アダムスミスの「国富論」(1776)、政治学者ホッブズの「リヴァイアサン」(1651)、ルソー「人間不平等起源論」(1755)などの古典まで批判の射程は及ぶ。アダムスミスに対しては「商品貨幣説」(物々交換が携帯可能な貴金属が貨幣へと発展した)に対してグレーバーの前著「負債論」で文化人類学の知見を以て否定している。また「不平等の起源」についても、ホッブスが主張する「万人による万人との闘争状態」が、行政・国家といった機構により回避できるよう進化したという説(右派に好まれるという)、その対極のルソーの主張「かつて狩猟採集の民は上下なく平和に暮らしていたが、農耕牧畜による土地の囲い込み・土地私有・国家の領土争い、国民の社会的格差という不自由な状況が生れた」という説(左派に好まれるという)の両極またはその中間に人類の進化の歴史が位置づけられることが多いという。これらに対しても、それらの根拠の脆弱性について(つまり「物語」に過ぎないのではないかと)指摘する。

    こうした「先史への理解」はそもそもなぜ形成されてきたのか。そしてその「物語」はエビデンスに基づいているのだろうか。ハラリ、ピンカー、ダイアモンド、アダムスミス、ルソー、ホッブスらは、人類学者でも考古学者でもなく、先史をピックアップした歴史のトピックと持ち前の想像力で描いたのである。その歴史観(物語)はそれぞれに違いがあるものの大方共通する。つまり、人類は言語を得て、バンドから部族、首長制へと拡大し、宗教により大集団を成す。こうして認知革命・農業革命・産業革命を経て都市や国家を形成し、近代においては革命や戦争を経て、自由・平等といった普遍的価値観を得る、そこで先行した西欧の価値観が全世界へと広がり、現在に至っているといった共通理解だ。しかし本当にそうだろうか。人類の発展の長い歴史の中で、様々なことが起こったはずだが、それを「たまたま」いま世界のイニシアチブを取ることに成功した西欧発の価値観・モノサシで、先史から現代までの時間の流れを「右肩上がりの進化・進歩」として見てるだけではないか。それは非西欧に対する西欧(北米まで拡大)の傲慢ではないのか。そうした「西欧からの視点による人類史」の正当性と正確性を問うているのだ。

    そして現在世界で共有されようとしている人類の「ビッグヒストリー」に対して異議を唱え、それらが創造の産物に過ぎないことを、「その道のプロ」である文化人類学者グレーバーと考古学者ウェングローは、これでもかと言うほどの豊富な調査・文献により崩しにかかる(本書の半分以上はそうした具体的事実の記述に費やされている)。様々な非西欧の魅力的な事例が紹介されるが、特に印象深く読んだのは、米先住民の政治家カンディアロンクと、アメリカ大陸の植民地化を進めるフランス人ラオンタンとのやり取りだ。米先住民のカンディアロンクは知性と弁舌に優れ、先住民の価値観を言語化することに長け、その言葉は当時のフランス・欧州(欧州各国語に翻訳された)の知識層に強い影響を与えた。その一節を引用したい。

    カンディアロンク「私は6年間、ヨーロッパ社会のありさまを考察してきましたが、彼らの行いが非人間的ではないとは、いまだいささかもおもえません。あなたがたが 「わたしのもの」と「あなたのもの」との区別に固執するかぎり、それに変わるところはない。そう心から考えています。 あなたがたがお金と呼ぶものは、悪魔のなかの悪魔、フランス人の暴君、諸悪の根源、魂の悩みの種、生者の処刑場である、こうわたしは断言します。お金の国に住みながら魂を生き長らえさせることができる、このような考えは、湖の底で命をらえさせることができるという考えとかわるところがありません。お金は、贅沢、淫乱、陰謀、策略、嘘、裏切り、不誠実の父であり、世界のあらゆる悪行の父なのです。 父は子を売り、夫は妻を売り、妻は夫を裏切り、弟は殺し合い、友人は偽り合う。 すべてはお金のためです。このようなありさまをみて、わたしたちウェンダットが銀にふれることもみることも拒否するのがただしくないとはたしていえるでしょうか」

    ラオンタンらフランス人は、カンディアロンクに西欧文明の利点を説得しようとしたが、カンディアロングは「フランス人こそウェンダット(先住民の国)の生活様式を取り入れた方がはるかによいと反論したのである。米先住民のほとんどは実際に「個人の自律性と行動の自由を至上の価値として捉え、他者の意志に服従する可能性を最小化するよう生活を組織」していた。それは彼らの統治と自由のバランスに対する知恵の結晶だった。その視点からフランス社会を「本質的に分裂した奴隷たちの社会」と捉えていたのである。この18世紀の出来事がフランスと広く欧州の知識層に揺さぶりをかけた。しかしその反動として「社会進化論」という(ある意味で西欧文明を正当化する)社会の4段階説などが人類の普遍的進化論として急ぎ取り繕われ、カンディアロンクの言説は発展途上の取るに足らぬものとして位置づけられたのである。

    そもそも西欧が歴史の表舞台で光を浴びたのは、先史の長さを考えると最近のことと言える。そこには記録に残されていないが多くの試行錯誤により形成された「人類の知恵」の宝庫であることが容易に想像される。西欧史観では現在の自由・平等といった理念(それらも消え去ろうとしているが)は、多くの流された血により手に入ったものとされている。しかし「人間社会とはどのようなものかについて、わたしたちはまったく異なる考えのもとで生活していたこともありえたということなのだから。つまり、膨大な人間の奴隷化、大虐殺、収容所、さらには家父長制や賃労働の体制などがかならずしも存在しなくてもすんだ」かも知れないと著者は言う。歴史に「もし」はないが、これまでの長い人類史、そしてそのほとんどを占める「先史」に対して、西欧史観や現在の世界にどっぷりと浸かってしまった目線からいったん離れ、虚心坦懐に対することの必要性を強く感じさせる。

    本書は読むべき、そして様々な読み方のできる一冊だが、チャレンジするならば「訳者あとがき」に各章の趣旨が親切に書かれているので、その構成を頭に入れて読むことをお薦めしたい。俯瞰しないと、途中で最初の内容を忘れてしまうほどの長さなので。

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  • 星5つ中5つ
    人間の可能性の中心を見る!
    2024年11月3日に日本でレビュー済み
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    我々は目的論的に世界や歴史を見るから、どうにも世界は進むべき方向にすすんでいると考えがちだが、実はそうではないのでは?と安直な思考習慣に楔を打ち込む一冊だ。もちろん本書で展開される論考は考古学や人類学的に裏付けられているものの、検証しようのないものも多々あると言ってもよい。そして過去の人類が持っていた柔軟な思考のいい部分だけを取り上げて理想化しているフシもある。何が真実かはさておき、少なくとも我々の世界にはまだまだ可能性が溢れていることだけは確かに感じられたことは収穫だった。

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  • 星5つ中4つ
    万物の黎明
    2025年12月13日に日本でレビュー済み
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  • 星5つ中5つ
    翻訳の日本語の美しさが秀逸です
    2024年7月10日に日本でレビュー済み
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    資料に裏付けられた本書の内容の素晴らしさは言うまでもありませんが、それを分かりやすく正確に読者に伝えるために払われた訳者の尽力に感謝します。巻末の解説文も大変役に立ちました、

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