採用の限界…「史上最高の人手不足」に見る中小企業の未来

有名企業ばかり受ける就活生が陥るワナ

人材不足、学生にとっては朗報だが…

採用の現場で、人材不足が続いている。

リクルートワークス研究所の調査では、20卒新卒者を「増やす」と答えた企業は13.8%。「減らす」と答えた5.9%を大幅に上回った。また、「増やす」と答えた企業は従業員5,000人以上の大企業が多く、新卒採用人数も相対的に多くなることが見込まれる。

2020年、つまり来年大学を卒業する学生にとっては朗報である。就職活動は3月に本格化する。不安を抱き「就活開始」を待つ学生にとって、事前に自分が売り手市場へ出られるとわかって挑むなら安心であろう。

筆者は2012年より学生の就活支援を行っているが、今年は空前の売り手市場と体感する。

「有給休暇100%」
「女性管理職比率3割以上」

など、働き方改革に便乗した企業のアピール合戦は続く。

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学生もリーマン・ショック期は「就職できればどこでもいい」と血眼になっていたが、2020卒の学生は「30歳までに年収800万円あって、安定していて、20時に帰れて、裁量権が大きい仕事がいい(明治大学、21歳)」など職場へ希望する条件も増えている。

上述の条件を例にとると、すべての条件をそろえた職場はさすがに限られるが、本気で指導すれば2~3個の希望は叶えられる。氷河期世代が聞いたらひっくり返るような売り手市場だ。

売り手市場の学生が企業へ多くを求めるのはしごく当然のことであり、それに合わせて職場環境が改善するならよい傾向である。新卒が待遇改善を求めれば、すでに働いている社員も恩恵を受けられる可能性が高いからだ。

〔PHOTO〕gettyimages

採用に苦戦する中小企業

いっぽう、中小企業やベンチャーにとって、現在の売り手市場はよいニュースとはいいがたい。

よい人材は福利厚生や給与条件のよい大手企業に軒並み奪われてしまい、中小企業にまで学生が回ってこない。それも「よい学生がいない」のではなく「文字通り来てくれない」のだ。

ある就活媒体の担当者はこう語る。

「中小企業へ学生をあっせんするのは現況、厳しいですね。中小企業でも経営状態がよい企業、安定しているところはたくさんあります。不景気であれば学生はそういう会社を見つけて、応募してきてくれました。しかし今の学生は有名企業ばかり受けて、中小まで自分から積極的に探そうという気も起こしません」

社会人になれば「大手こそすべて」でないことは理解できてくる。むしろ社員50名、売上100億円で安定した顧客を抱える企業に敬意を抱く機会も増える。

だが学生はそもそも広告で見かけるような有名企業以外を知る機会が少ない。中小企業が採用イベントでブースを確保しても、「なに、この会社?」「さあ?」と流されてしまうのがオチだ。

学生にとっても仇となりうる売り手市場

このような「売り手市場からの大手・有名企業への一極集中」は、学生にとってもデメリットがある。「大手全落ちからの無内定」コースだ。

ある19卒の学生はこう語る。

「就活は最悪でした。食品メーカーに興味を持ったんで、明治、カゴメ、味の素、グリコと大手を中心に5~6社受けて、エントリーシートすら通らなくて。やっべ、と思ったらもう大手のエントリー期限が過ぎちゃって……。もう留年するしかないか、って焦りました。

最後は父親の知り合いの会社に入れてもらいましたけど、親からその話が出てくるまではウツでしたね。今も満足してないですし。できれば就留(就職留年)してやり直したいです」

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大手食品メーカー文系部門(経理、人事、営業など)への就職は、採用人数のわりに応募者が多いため倍率が高くなりがちである。たとえば明治は事務系総合職の募集が4人に対し、応募者約1万1,000人。採用倍率は2,750倍に達する。

売り手市場だからといって、人気企業は人気企業のままである。売り手市場では「どうせ通るから大丈夫だろう」とたかをくくって超人気企業だけを数社受け、全落ちする学生も増える。

不景気であれば学生も危機感を抱いて早期に倍率を調べ対策を打てたであろうに、学生にとっても売り手市場が仇となるケースもある。

〔PHOTO〕gettyimages

入社後ショックを受け辞める学生も

また、「無内定」のワーストケースに限らずとも、もう少し探せば自分に合う企業を探せた学生が、売り手市場だからと知名度が高い企業へとりあえず内定し、入社後にミスマッチに気づく……という相談がこの数年で増えた。

ある大手保険会社へ内定した学生は、こう述べた。

「働き方改革なんて、ないですね。土日もフルで働かされてて、睡眠時間が3時間なんてこともあって。先輩もそれくらい働いてるので、それが当たり前って感じです。しかも残業代は月20時間しか申請できないんで、100~120時間くらいは毎月サビ残(サービス残業)です。人事部の人は嘘をついてないと思いますよ。あのひとたちは早く帰れてますもん。

就活してたときは、会社がブラックか、ホワイトかしか見てなくて。同じ会社でも部署でこんなに差があるなんて思いませんでした。しかも大手でこんなことがあるなんて。ブラックなのは中小だけだと思ってました。騙されました」

働き方改革を推進したい人事部と、残業時間を減らせと言われるばかりで人材は補充されない現場。場合によっては違法な「サービス残業」で補填するところもあるだろう。こういった理想と現実のギャップにショックを受け、早期転職を考える学生は後を絶たない。

筆者はこういった労働環境を理由に優秀な学生がより労働しやすい会社へ移動すること自体をポジティブに受け止めている。

他方、学生がOB・OG訪問で労働環境の実情を確認することもなく「とりあえず大手で」と内定できてしまう現状には警鐘を鳴らしたい。

若手のうちは丁稚奉公のつもりでと覚悟して飛び込む激務と、後から知らされて「知らなかった、騙された」と感じる激務ではショックの度合いも大きく異なるからだ。

大手の隙をつく中小採用の活路

そして大手企業のこういったミスマッチにこそ、中小企業の採用における活路が見えてくる。

「大手だから、早く帰れるとは限らない」「中小だから、ブラックとは限らない」といった会社員の”常識”は学生にとって新鮮なニュースだからだ。
 
また、「うちは中小だが、その代わりに学生へ早期に〇〇を与えられる」と強みを打ち出す企業も採用が成功しやすい。

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たとえば広告代理店のdofは、「ブラック企業dofに入社しないほうがいい10の理由」という挑戦的な採用ページを作り、学生の目を惹いた。

よく読めば、労働時間は長いものの1年目から海外出張、高級なお店での飲み会、電通クラスの給与など一定の学生に刺さる採用ページとなっている。

ブラック企業dofに入社しないほうがいい10の理由

中小企業が大手と同じように「あれもこれもできますよ」と言っては、ウソになってしまう。しかし大手も現場と乖離した採用条件を学生へ見せているのは事実だ。

そのスキを突く形で「ウチは確実にこれができますよ」と強みを全面に押し出せば、優秀な学生を確保できる。

逆に言えば、そこまで振り切った採用活動をトップが許容できるかどうかが、2020卒の採用のカギとなるだろう。

日本に大手企業はわずか0.3%。これからの採用を担うのは、中小企業とベンチャーである。

【参照】
・20年新卒採用、大企業は好調 中小企業は苦戦の見込み 売り手市場で広がる格差
http://www.itmedia.co.jp/business/articles/1812/19/news108.html
・売り手市場の新卒採用ではドタキャンも! イマドキの就活生獲得の「傾向と対策」
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20181224-00008929-toushin-bus_all
内定競争倍率「高い50社、低い50社」はどこか
https://toyokeizai.net/articles/-/61377?page=2
「ブラック企業dofに入社しないほうがいい10の理由。」
http://dof.jp/recruit/recruit.html 
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