スラップ奏法
スラップ奏法(スラップそうほう、英: slapping)は、ベースの演奏方法のひとつ。日本においてはチョッパーとも呼ばれる。
奏法
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エレクトリックベースにおいては、親指で弦を叩くようにはじく動作(サムピング、英: thumping)と、人差し指や中指で弦を引っ張って指板に打ちつける動作(プリング、英: popping)がある。この2つの動作を組み合わせる事でパーカッシブな(打楽器のような)音が出せる。基本的にはサムピングで低音弦、プリングで高音弦を弾く。
パーカッシブなスラップ奏法は強い出力を発することからスピーカーやアンプの音割れ、故障に注意が必要であり、基本的には出力を抑えるリミッターやコンプレッサーを使用して演奏される。
起源
[編集]アメリカのベーシストであるスリック・ジョー・フィックによれば、 「スラップベース奏法の正確な起源を知る人は誰もいません」とした上で「アンサンブルの中で自分の音を響かせるために、ベーシストたちはこうしたテクニックを使用し始めた」と話している[1]。1920年代初頭のニューオーリンズ・ジャズやソウルミュージックを経てアップライトベースでの演奏スタイルへと徐々に進化していき、ファンク、ディスコ、ラテン、ポップスといったジャンルでも用いられるようになった[1]。

エレクトリック・ベースにおけるスラップ奏法はラリー・グラハムが1969年にスライ&ザ・ファミリー・ストーンの楽曲「Thank You」で披露したものが最初のものと位置づけられており、グラハムは自身のスラップ奏法を「サンピン&プラッキン(thumpin’ and pluckin’)」と呼称している[2]。グラハムは10代の頃にベースを弾き始めたときからピックを使用せずに指でベースを演奏し、当初から親指で弦を叩いてバスドラムの代わりにする「サムピング(親指で叩く)」や、指で弦を弾いてバックビートのスネアドラムの代わりにする「プラッキング(指で弾く)」の奏法を取り入れていた[2][3][4]。
グラハムのスラップ奏法はベースという楽器の歴史において最も革新的かつ影響力のあるテクニックとして時代を超えて後生に受け継がれており、自身のスラップ奏法が模倣されてきたことについてグラハムは2007年に以下のように話している[2]。
自分のプレイスタイルを真似されることは、常に賛辞として受け止めてきました。多くのベーシストが近づいてきて、褒めてくれたり感謝してくれたりします。今でも本当に嬉しいですよ。だって、それが今やベース演奏の一部になっているわけですから。 私のサンピングとプラッキングのスタイルを愛している人の多くは、それがどこから来たのかを知りません。彼らのお気に入りのベーシストは私のプレイを聴いていましたが、ファンは「そのバンドのそのベーシスト」のことしか知らないんです。私は手柄を求めているわけではありませんが、ヴァーダイン・ホワイト、スタンリー・クラーク、フリー、ブーツィー・コリンズ、ヴィクター・ウッテンといったベーシストたちが、自分のプレイに私が影響を与えたと語ってくれると、いい気分になりますね。音楽の世界に対して、現在も続き、おそらく永遠に残るような何かを貢献できたと知ることが、何よりも嬉しいことなんです。 — ラリー・グラハム、"Larry Graham: Trunk of the Funk Tree"(ベース・プレイヤー)[2]
日本
[編集]日本において初めてスラップ奏法を使用したベーシストは田中章弘とされており、田中自身もそれを自認している[5][6][7]。田中はスライ&ザ・ファミリー・ストーンの『暴動』におけるラリー・グラハムのスラップ奏法に魅了され、音声のみを頼りにグラハムのスラップ奏法を研究し、試行錯誤を重ねた[8]。田中のスラップ奏法が最初に録音物として発表されたものはティン・パン・アレーが1975年に発売した『キャラメル・ママ』収録曲「はあどぼいるど町」である[7]。日本では「スラップ奏法」を「チョッパー」と呼称する傾向があった[9][10]。これは後藤次利がベーシストとして参加した『キャラメル・ママ』収録曲「チョッパーズ・ブギ」に由来する[7][11]。
その他、日本にスラップ奏法が伝わるようになった1970年代には美乃家セントラル・ステイションに在籍した六川正彦、福田郁次郎、鳴瀬喜博、藤井裕がスラップ奏法を取り入れている[7]。青木智仁は角松敏生が1987年に発表したアルバム『SEA IS A LADY』でコーラスの効いたサウンドでのスラップを披露した[12]。
アップライトベース
[編集]電気を通していないベースは、アップライト・ベース、ダブル・ベース、ウッド・ベースなどと呼ばれる。これらはコントラバスと同じであるが、コントラバスはクラシック音楽において、弓を使用して演奏される。奏法としては以下のような奏法が存在する。
- 指で弦を引っ張り垂直に離す事で指板に当て、実音(音程)と同時にスラップ音を発生させる奏法[注 1]。
- 指で弦を叩き指板に打ち付け、その直後に弦を弾く事で、スラップ音と実音(音程)を鳴らす奏法。
- 手首近くの部分で素早く低音側の弦を指板に打ち付け、スラップ音のみを発生させる奏法。
- ウッドベースの弦を指で引っ張りつつ滑離し、低音とネックに当たる「カチッ」という中高音をミックスさせた音を出し、更に手の平で弦をネックに叩きつけてパーカッション効果を出す奏法[注 2]。
いずれの奏法も弦を指板上に叩き付ける事でスネアドラムのリムショットのような音が鳴り、通常の音色(実音)に打楽器的な表現を加える事が出来る。古くは拡声器の無い頃、スウィング・ジャズのビッグバンドでベース奏者が大きな音を出すために用いたが、後にロカビリー、ネオ・ロカビリー、サイコビリー、ジャズ、カントリーその他で使用されるようになる。初期は1920年代から30年代のスウィング・バンド、スウィング・オーケストラで使われた。
主な使用例
[編集]アメリカの音楽雑誌「Guitar World」は、以下の20曲を史上最高のスラップ奏法を用いた楽曲として2024年に紹介している[4]。
| 楽曲名 | アーティスト名 | 奏者 | 発表年 | |
|---|---|---|---|---|
| 1 | U Can't Hold No Groove (If You Ain't Got No Pocket) | ヴィクター・ウッテン | ヴィクター・ウッテン | 1996年 |
| 2 | Thank You (Falettinme Be Mice Elf Agin) | スライ&ザ・ファミリー・ストーン | ラリー・グラハム | 1969年 |
| 3 | Forget Me Nots | パトリース・ラッシェン | フレディ・ワシントン | 1982年 |
| 4 | Hair | グラハム・セントラル・ステーション | ラリー・グラハム | 1974年 |
| 5 | Slapocalypse | Charles Berthoud X Giacomo Turra | Charles Berthoud | 2024年 |
| 6 | Glide | プレジャー | ナサニエル・フィリップス | 1979年 |
| 7 | Higher Ground | レッド・ホット・チリ・ペッパーズ | フリー | 1989年 |
| 8 | Tommy the Cat | プライマス | レス・クレイプール | 1991年 |
| 9 | Run for Cover | デイヴィッド・サンボーン | マーカス・ミラー | 1981年 |
| 10 | Endless | Toby Peterson-Stewart | Toby Peterson-Stewart | 2023年 |
| ジェイコブ・ユマンスキー | ||||
| 11 | Stomp! | ブラザーズ・ジョンソン | ルイス・ジョンソン | 1980年 |
| 12 | Love Games | レベル42 | マーク・キング | 1981年 |
| 13 | Take the Power Back | レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン | ティム・コマーフォード | 1991年 |
| 14 | Stone Jam | スレイブ | マーク・アダムズ | 1980年 |
| 15 | Thriller | ダーティ・ループス & コリー・ウォン | ヘンリック・リンダー | 2021年 |
| 16 | D-Code | アラン・カロン | アラン・カロン | 1997年 |
| 17 | Lopsy Lu | スタンリー・クラーク | スタンリー・クラーク | 1974年 |
| 18 | If That’s Your Boyfriend (He Wasn't Last Night) | ミシェル・ンデゲオチェロ | ミシェル・ンデゲオチェロ | 1993年 |
| 19 | Emergency on Planet Earth | ジャミロクワイ | スチュアート・ゼンダー | 1993年 |
| 20 | Throwback | イダ・ニールセン | イダ・ニールセン | 2016年 |
主な奏者
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※主な使用例で紹介されているアーティストは割愛。
脚注
[編集]注釈
[編集]- ↑ クラシック音楽の奏法におけるバルトーク・ピッツィカートと類似しているが、厳密にはスラッピングとは異なる。
- ↑ 特にスウィング・バンドが用いる。
出典
[編集]- 1 2 “All about that (slap) bass” (英語). The Daily Herald (2015年12月19日). 2026年8月7日閲覧。
- 1 2 3 4 5 “Larry Graham: Trunk of the Funk Tree” (英語). ベース・プレイヤー (2007年4月). 2007年10月13日時点のオリジナルよりアーカイブ。2026年8月7日閲覧。
- ↑ “Larry Graham — Biography, Discography, Albums & Expert Reviews” (英語). AllMusic. 2026年8月7日閲覧。
- 1 2 “The 20 greatest slap bass songs of all time” (英語). Guitar World (2024年5月20日). 2026年8月7日閲覧。
- ↑ “ファンク黄金時代の再発掘――日本のファンクマスターたち | ベース・マガジン” (2021年3月4日). 2026年8月7日閲覧。
- ↑ “Vol.08 田中章弘さん『チャック・レイニーの音は力が抜けているけど芯がしっかりある音。彼の出すリズムやタイミングは独特な柔軟性があり、それがやわらかいグルーヴ感になっていくんだと思います。』 | チャック・レイニー 日本公式サイト | The Official Chuck Rainey Japan Website”. 2024年12月5日閲覧。
- 1 2 3 4 “【追悼】田中章弘 ─山下達郎「BOMBER」で魅せた元祖スラッパーが語った“スラップ黎明期””. ベース・マガジン (2026年5月20日). 2026年8月7日閲覧。
- ↑ “【ニッポンの低音名人extra】 – 田中章弘 | ベース・マガジン” (2022年1月12日). 2026年8月7日閲覧。
- ↑ “第56回 チョッパー・ベース改め、スラップ・ベースのラリー・グラハム&グラハム・セントラル・ステーションと中平穂積写真展”. AERA DIGITAL(アエラデジタル) (2014年4月16日). 2026年8月7日閲覧。
- ↑ “エレキベース チョッパー奏法とスラップ奏法の違いとは”. トリイ楽器 (2022年1月13日). 2026年8月7日閲覧。
- ↑ “後藤次利先生”. 日本テレビ音楽株式会社. 2026年8月7日閲覧。
- 1 2 3 “マーカス・ミラー新作は貴重ライヴ盤!スラップ・ベース作品も大特集”. TOWER RECORDS ONLINE (2010年5月18日). 2026年8月8日閲覧。
- ↑ “Soulfly's Mike Leon on Playing Slap Bass in Extreme Metal: 'I Struggle With a Pick'” (英語). www.ultimate-guitar.com. 2026年8月7日閲覧。