ファセット・カット

ファセット・カット(英: Facet cut)とは、宝石の加工方法のひとつ。一般的には透明な石に施される。宝石の表面に角度の違う多数の切子面(ファセット)を持たせることによって、光を屈折させ、内部から輝いているように見せるカット方法である。
ダイヤモンドのブリリアントカットやステップカット(エメラルドカット)、マーキス・カットなどのタイプがある。
初期のダイヤモンドの加工技術は、主に八面体の結晶などのダイヤモンド原石の自然な形状を単純に研磨するだけのものであった。宝石にカットと研磨を施し、複数の平らな面を作り出すファセット・カットの工程が初めてヨーロッパで開発されたのは、14世紀に入ってからのことである[1]。
ファセット・カットの変遷
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これまで用いられてきた何百ものファセット配列の中で、おそらく最も有名なのは、ダイヤモンドや多くの色石に採用されている「ラウンド・ブリリアント・カット」である。現代のブリリアント・カットの原型となった最初期のカットは、17世紀後半にペルッツィという名前のイタリア人によって考案されたと言われている[2][3]。
その後1919年にマルセル・トルコフスキーによって、「アイディアル(理想的)」カットダイヤモンドの各部の角度が初めて算出された。以降、わずかな修正は加えられてきたが、アイディアルカットのダイヤモンドは依然としてトルコフスキーの数式に近いものとなっている。「アイディアル」な角度が登場する以前のラウンド・ブリリアント・カットは、しばしば「アーリーラウンド・ブリリアントカット」または「オールドヨーロピアン・ブリリアントカット(オールドヨーロピアンカット)」と呼ばれている。現代の標準からは精度の低いカットだとみなされるものの、今なおコレクター達からは関心を集めている。
その他の歴史的なダイヤモンドカットには、初期のラウンドブリリアントに近いが、ラウンドではなくクッション型の輪郭を持つ「オールドマインカット」や平滑な底面とクラウン[注 1]部分に施されたファセットによって、多面的なドームを形作る「ローズカット」などがある。
パビリオン[注 2]の先端の欠けを防ぐため、石の底面にキューレットと呼ばれる58番目の面がカットされることがある。初期のブリリアントカットのキューレットは非常に大きいことが多かった。しかし一般的に現代のブリリアントカットはキューレットのカット面がなく、あったとしてもごく小さいサイズである。
ファセット・カットの工程
[編集]宝石のカット技術は、宝石研磨機(ファセッティング・マシン)を使用する、非常に精密な工程である。
カッティングの理想的な仕上がりは、「ブリリアンス」と呼ばれる内部光の反射、「ファイア」と呼ばれる力強く色鮮やかな光の分散(ディスパージョン)、「シンチレーション」と呼ばれる輝かしい反射光のきらめきが、絶妙なバランスで調和していることである。一般的にファセットカットは透明から半透明の石に施される。しかし不透明な石であっても、宝石の光沢が魅力的な反射を生み出すことから、時折ファセットカットを施されることもある。不透明な宝石がファセットカットされる例として、プレオナスト(ブラックスピネル)とブラックダイヤモンドが挙げられる。

角度
[編集]宝石の仕上がりには、それぞれのファセットの角度が重要な役割を果たしている。ファセットの配置は、一見どの宝石でも共通しているように見える。しかしその角度は、それぞれの石の屈折率に応じて、光学的に最大限の効果を引き出すように注意深く配置されている。光が宝石内を通過し、研磨されたファセットに入射する際に、ファセットが光を外部に漏らさず内部に光を反射できる最小角度を臨界角と呼ぶ[4]。
もし光線の入射角が臨界角未満だと、光は宝石を通過してブリリアンスを現すことなく抜け出ていってしまう。宝石から光線が抜けて透過してしまい、輝きが失われる現象はしばしば「ウィンドウ[注 3]が開く」「色抜けする」と表現される。この現象は、特にカットの精度が低い普及価格帯の宝石によく見られる例である。一般的に屈折率の高い宝石はより価値があるとされている。屈折率が高いほど臨界角は低くなるので、光が外に逃げにくくなり力強い内部反射が可能になるためである。
宝石研磨機
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この宝石研磨機ではモーター駆動のプレートを使用し、「ラップ」と呼ばれる精密な平面のディスクを保持してカットや研磨を行うことができる。カット加工には、一般的に金属やレジン(樹脂)で固着されたダイヤモンド砥粒が用いられる。そして研磨加工には、非常に細かい粉末状のダイヤモンドか酸化物系研磨剤と組み合わせ、多様な種類の材料が使用される。通常、水がカット作業に用いられ、油または水が研磨工程で使用される。宝石研磨機には一般的に「マスト」と呼ばれる機構を備えられている。角度表示、高さ調整、そして通常は所定の数の歯を持つギア(「インデックスギア」)が、石を回転させる角度を設定するために用いられる。回転角度はギアの歯数によって設定されているが、多くの研磨機にはそれより細かい単位で回転角度を調整するための追加手段が備わっている。これはしばしば「チーター」と呼ばれている。
石を固定する棒(一般的には金属製)は「ドップ」または「ドップ棒」[注 4]と呼ばれ、「クイル」と呼ばれるマストの一部によって、所定の位置に固定される。
現代のファセット加工工程
[編集]ドップ棒に固定された石は、より粒度の細かい切削用のラップによって正確な角度と回転角で削られる。その後は各面を研磨するために、この工程をもう一度繰り返す。カットと研磨工程における角度は、角度表示機能とインデックスギアによって正確に再現することができる。
研磨という物理的な工程には議論の余地があるとされる。ある一般的な説は、研磨剤に含まれる細かい粒子が光の波長よりも小さなすり傷を付けるので、これによって微細な傷は目に見えなくなるというものだ。
宝石には2つの側(クラウンとパビリオン)があるので、石を裏返すための「トランスファー・ジグ」と呼ばれる装置を使ってカットと研磨を行う。[4]
その他の加工方法
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劈開(へきかい)は、鉱物が特定方向に割れやすい性質のことである。これは鉱物の結合構造における化学結合の面方向の弱さに起因する。正確な角度で鋭い衝撃を与えると、しばしば石はきれいに割れる。劈開は、未カットの石をより小さな欠片に分割するために行われることはあるが、ファセットを作るために使われることは決してない。かつては劈開を利用してダイヤモンドを割ることは一般的だった。しかし、石に大きなダメージを与えるリスクがあり、必要のない欠片が発生することも多かった。現代でダイヤモンドを小さな欠片に分割する手段としては、カットする方法が主流となっている[2]。
ジャンブ・ペグ・マシンと呼ばれる、古い最初期の形態のファセット用の機械では、正確な長さの木製のドップ棒と、精緻に配置された穴が開いた板から成る「マスト」システムが使用されていた。ドップ棒を多数配置された穴のどれか一つに差し込むことで、石を正しい角度でラップに当てることができる。このような機械を効果的に操作するには、熟練の技術を必要とした[4]。
また別のファセットカットの方法として、シリンダーを使用して曲線を削り出し、コンケーブ・カットを作り出すことが含まれる。伝統的な宝石研磨方法のプロセスにおいて、この技術を用いると独創的で芸術的なバリエーションを生み出すことができる。
天然のファセットの結晶構造
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多くの結晶は自然と多面体の形に成長する。例えば食塩は立方体を、水晶は六角柱をそれぞれ形成する。これらの特徴的な形状は、物質の結晶構造と表面エネルギー、そして結晶が形作られた一般的な条件下に起因している。
結晶構造のブラべ格子によって、一連の「低エネルギー面」が決定づけられる。これらは通常、原子が密充填されている面のことである。例えば、立方晶系では、立方体の各面や、その対角線上に低エネルギー面が存在する場合がある。これらの面が「低エネルギー面」と言えるのは、結晶をこの面に沿って劈開した場合、切断される結合が比較的少なく、切断前の状態からのエネルギーの増加が抑えられるためである。言い換えれば、これらの面は表面エネルギーが低い。結晶全体の熱量学的な自由エネルギーを最小化するため、最もエネルギーの低い面が最大のファセット面を形成する。各面の表面エネルギーが判明していれば、ウルフの作図を用いてその結晶の熱量学的平衡形状を導き出すことができる[注 7]。
結晶が成長する土台などの条件によって予測される結晶の形状が変化することがある。例えば、結晶が底部の土台から力や圧力を受けている場合、土台に沿って横に広がるように成長するよりも、上方向に高く伸びるような成長を促進することがある。表面エネルギー(各結晶面の相対的なエネルギーの差異を含む)は、温度、周囲の組成(湿度など)そして圧力といった多くの要因に依存している。
脚注
[編集]- ↑ ダイヤモンドを横から見たときに、最も張り出している外周の縁(ガードル)より上にある冠のような部分を指す。
- ↑ ガードルから下の、円錐形に尖っている下半分全体のことを指す
- ↑ 日本語版出典: https://www.gia.edu/JP/gia-news-research-value-factors-gem-cutting-styles-definitions
- ↑ 研磨の際、宝石を固定して保持するための棒。日本では「ドップ棒」の方が一般的。
- ↑ ジョセフ・アイザック・アッシャーはオランダのダイヤモンドジュエラーであるロイヤル・アッシャー・ダイヤモンドの創業者。
- ↑ ハーキマーダイヤモンドというコマーシャルネームを使用されることもあるが、ダイヤモンドではなく水晶の一種。
- ↑ 「基礎講座 薄膜結晶成長の基礎」名古屋大学 上羽牧夫
出典
[編集]外部リンク
[編集]- Gem faceting process — Step by step pictures from rough stone to faceted gem.