レイヴ

レイヴ(英語: Rave)とは、大規模な会場でDJがハウスやテクノをプレイするダンスパーティー・イベント[1][2]。主に1980年代後半から1990年代初頭にかけてイギリスでアシッド・ハウスとエクスタシーとの併用によって隆盛を極めた現象を指し、やがてイギリス政府はレイヴを危険かつ反社会的な現象と見なし、規制・排除に取り掛かった[1]。
レイブはクラブ・ミュージックの世界的な流行と相まって世界各地に広がっていき、ドイツでは1989年からレイブの祭典「ラブパレード」が開催され、インドでも大規模なレイブ・パーティーが開催された[2]。
1990年代のレイブ・シーンではトランスが主流のダンス・ミュージックとなり、東欧やアメリカ、イスラエル、南アフリカ、オーストラリア、台湾、日本などでも定着した[2]。日本では、レイブとも表記される[2]。
歴史
[編集]1988年にイギリスでアシッド・ハウスのムーブメント「セカンド・サマー・オブ・ラブ」が起こり、1989年以降アシッド・ハウスのパーティーは会場の規模を拡大していき、倉庫や野外といった場所で行うようになるが、これらは違法行為であった[3]。
レイヴという呼称は、1989年夏にテレビインタビューでジェネシス・P・オリッジがアシッド・ハウスのパーティーを「レイヴ・パーティー」と呼んだことをきっかけに、メディア上でそのように再定義されるようになった。レイヴ特有の雰囲気が完全に確立されたのは1990年代に入ってからのことであり、1990年にベルリン、ミラノ、パトラといった都市でレイヴが開催された[4]。
レイヴはその違法性とドラッグの広範囲な使用が社会不安の原因となるといった観点から、政府や警察から強力に取り締まりを受けることとなる。やがて、ブームの沈静化とレイヴを取り締まる法案「クリミナル・ジャスティス・ビル」が提出され、1994年に法制化された(1994年刑事司法および公共秩序法)。法案はジョン・メージャー内閣の内相マイケル・ハワードによって立案され、第5部において「反復するビート(repetitive beats)」に対する規制を定めた。この法案に対して約10万人の大規模な反対デモも実施された。
語源
[編集]14世紀初頭に「狂気や譫妄の兆候を示す」「激しい言葉でわめく」といった意味で「raven」という言葉が使用されている。これは古フランス語の「raver」に由来し、この語は「夢を見る」、「あちこちさまよう」、「狂ったように振る舞う」を意味する「resver」の異形である。「resver」の語源は不明[5]。
1950年代後半、イギリスのロンドン・ソーホーで、物質主義を否定するライフスタイルを実践する社会運動「ビートニク」によって「奔放でボヘミアンなパーティー」を指すものとしてレイヴという言葉が使用されていた[6]。
1960年代初頭に台頭したモッズ・カルチャーにおいても「奔放なパーティー」がレイヴと呼ばれ、社交的でパーティー好きの人々は「レイヴァー」と呼ばれるようになった。スモール・フェイセズのスティーヴ・マリオットやザ・フーのキース・ムーンなども自らを「レイヴァー」と称していた[7]。
ロンドンのジャマイカ系移民の間で使われる「パーティ」を意味するスラング[8]、「revolution live」からの造語[9]といった説もある。
音楽的特徴
[編集]初期のレイヴの音楽は、アシッド・ハウス、シカゴ・ハウス、テクノなどが主であった。当初はアメリカのそれまで知られていなかったこうした音楽(「テクノ」はレイヴでヒットしていたデトロイトの新しい音楽を英国のメディアが命名した音楽ジャンルである)を輸入してDJ達がプレイしていたが、やがて英国や欧州からもその影響の下にオリジナルな音楽を作成するアーティストが多数現れた。代表的なものとしてレイヴ・アンセムとなったシングル「チャーリー」などで知られるプロディジー、「GO」のモービーなどがいる(その後レイヴ・ブームが去った後、この両者ともその音楽スタイルを完全に変えて世界的な大スターとなる)。
1990年代に入ると、アシッド・ハウス、ブレイクビート・ハードコア、ハードコアテクノ、ハッピーハードコア、ガバ、ドラムンベース、ポスト・インダストリアル、エレクトロニカといったジャンルがレイヴで取り上げられるようになる。
種類
[編集]フリー・パーティー
[編集]もっとも原型のレイヴに近い。人里離れた場所などでDJやサウンド・システムを設置してゲリラ的に行われるもので、口コミやチラシやインターネットなどによって集客を行う。屋内で行われる場合、ウェアハウス・パーティーなどとも呼ばれる。音楽の種類はその国により様々であるが、日本においてはトランス音楽などが主流である。開催費用については無料か、もしくは必要経費を参加者からカンパしてもらう形式となっている。法律に抵触するかに関係なく、当局によって中止を命じられることがしばしばあるため、開催当日までは場所を伏せておくなどの手法が用いられることもある。また、都市の公園などで合法的に小規模なものが開かれることもあるが、こうした形式のものはレイヴとは呼ばれないことが多い。
ダンス・フェスティバル
[編集]田舎や郊外の野外などで合法的に行われる、商業的で大規模なダンス音楽を中心としたフェスティバル。国や人によってはこれをレイヴの範疇に入れないところもある。有名なものは海外ではバーニングマン、Dance Valley Festival、Creamfields、Homelandsが、日本ではMt.FUJI FESTIVAL、METAMORPHOSE、渚音楽祭などがある。警察や開催地当局の許可の下、プロのプロモーターの会社が開催するものがほとんどとなっている。入場料は高額であるが、有名なDJやバンドが多数プレイすることが多い。また、合法的に行われ、多数の警察官やセキュリティも会場内に滞在している。数日間に渡って開催されるものが多く、参加者はキャンプをして過ごすこととなる。従来から英国などで盛んであったグラストンベリー・フェスティバルなどのロックを中心とした、野外フェスティバルの流れと一体化したものとも言える。また、ロックを中心とした野外フェスティバルでも会場の一部をこうしたダンス音楽中心のものとするケースが多い。
商業レイヴ
[編集]都市内の大会場で有名なスターDJを集めて一晩限りで行われるもの。そのために参加が容易であり、初心者向けである。英国やドイツなどの欧州で盛んであり、日本ではWIRE、METAMORPHOSE、ソルスティスミュージックフェスティバル、S.O.S festival、The Gathering、エレクトラグライド、RAINBOW2000、アルカディアなどが有名である。
日本では、1992年末から1993年初頭にかけて小室哲哉がオーガナイザーとして横浜ベイサイドクラブで9度に渡って開催した「TK RAVE FACTORY」が初めて商業レイヴとして行われた。なお、このイベントに合わせてtrfが結成された[9]。
麻薬問題
[編集]イギリスやヨーロッパでは、レイヴの場でMDMA[10][11]や大麻[12]などがしばしば使われた。
日本では、2008年に群馬県で催されたレイヴで薬物所持や使用の容疑により、みなかみ町で8人、嬬恋村で3人が逮捕された[13]。また、同年6月に行われた同じレイヴの参加者1人がその翌日に会場近くで倒れて3日後に死亡し、体内から薬物が検出された[14]。
2009年2月には山梨県の鳴沢村で行われたレイヴの参加者のうち6人が逮捕され[15][13]、同年8月には滋賀県高島市朽木地区でのイベントに向かう途中の6人が麻薬所持容疑でそれぞれ逮捕されている[16]。
脚注
[編集]- 1 2 “Rave Music Style Overview” (英語). AllMusic. 2026年7月19日閲覧。
- 1 2 3 4 増田聡「レイブ」『日本大百科全書(ニッポニカ)』小学館。コトバンクより2026年7月20日閲覧。
- ↑ Finnegan, Rory. “Rave New World - Dissertation on the Acid House & rave scene” (英語). Fantazia. 2011年11月2日時点のオリジナルよりアーカイブ。2026年7月19日閲覧。
- ↑ Timeline and numbers Reynolds, Simon (1998). Generation Ecstasy: into the world of Techno and Rave culture. Picador. ISBN 978-0-330-35056-3
- ↑ “rave”. ONLINE ETYMOLOGY DICTIONARY. 2024年9月8日閲覧。
- ↑ “Out of sight, out of mind”. hehe.org.free.fr. 2026年7月27日閲覧。
- ↑ “The History of Rave”. Jungle Drum and Bass. 2020年8月30日. 2023年7月15日時点のオリジナルよりアーカイブ. 2026年7月27日閲覧.
- ↑ 北中正和『新版 ロックスーパースターの軌跡』音楽出版社、2007年、ISBN 978-4861710377、177頁
- 1 2 Fine. 1993年3月号(trfの特集ページ). 日之出出版株式会社. (1993年3月)
- ↑ “Club Drugs”. 2021年5月10日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年5月9日閲覧。
- ↑ Palamar, J. J.; Griffin-Tomas, M.; Ompad, D. C. (2015). “Illicit Drug Use among Rave Attendees in a Nationally Representative Sample of US High School Seniors”. Drug and Alcohol Dependence 152: 24–31. doi:10.1016/j.drugalcdep.2015.05.002. PMC 4458153. PMID 26005041.
- ↑ “Marijuana in the Rave Culture of the 90's” (2018年2月6日). 2018年3月17日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年5月9日閲覧。
- 1 2 3 「レイブ」『知恵蔵mini』。コトバンクより2024年9月6日閲覧。
- ↑ 「レイブ」死亡女性から薬物検出 ― スポニチ Sponichi Annex 社会
- ↑ 「レイブ」で大麻吸引、山梨県臨時職員を懲戒免職 - 産経ニュース - ウェイバックマシン(2009年2月22日アーカイブ分)
- ↑ 「レイブ」に向かう6人、大麻所持容疑で逮捕 - 読売新聞 - ウェイバックマシン(2009年8月31日アーカイブ分)
- ↑ 世界遺産の隣でトランス、薬物「レイブ」パーティーの破茶滅茶“仰天” 地元住民は怒り心頭 - 産経ニュース - ウェイバックマシン(2014年11月19日アーカイブ分)
関連文献
[編集]- 野田努, 宝島編集部 企画・編集『クラブ・ミュージックの文化誌 : ハウス誕生からレイヴ・カルチャーまで』(JICC出版局、1993年、ISBN 978-4796606202)
- 清野栄一 著『RAVE TRAVELLER : 踊る旅人』(太田出版、1997年、ISBN 978-4872333435)
- 鶴見済, 清野栄一著、木村重樹編集・構成『レイヴ力』(筑摩書房、2000年、ISBN 978-4480873255)
- 草刈朋子 編・著『ラブ・キャンプ : ロックフェス&レイヴ・パーティー・キャンプ・マニュアル』(マーブルトロン、2001年、ISBN 978-4123900393)
- 頑津雲天 著『世界のレイヴの歩き方』(DU BOOKS、2015年、ISBN 978-4907583415)
- マシュー・コリン 著、坂本麻里子 訳『レイヴ・カルチャー : エクスタシー文化とアシッド・ハウスの物語』(Pヴァイン、2021年、ISBN 978-4910511023)