悪役令嬢への婚約破棄シーンに転生したと思ったら、まさかの言った側でした。そっちかよ!
「クラウディア・フォーディン公爵令嬢! この私、ユーリ・グランバークはおまえとの婚約を破棄する!」
私はそんな声で目を覚ました。
寝てたと思うのだけれど、なぜか立っていた。
しかも目の前には見たこともない西洋風の大広間。
……どゆこと?
周りを見回すと、近くには深紅の豪奢なドレスを着た女の子と、白いゆったりとした法衣に身を包む女の子。
離れたところには幾人もの中世西洋風の服を着た人々。
こ、これは……。
まさかの異世界転生ってやつ……?
コンビニからの帰りに信号無視したトラックに轢かれそうになったところまでは覚えている。
そこから気がついたらコレだ。
私は、目の前の女の子をびしっ、と指差したポーズで立っていた。
「えーと、ひっ!」
自分で喋って自分の声に驚く。明らかに自分のものではない低い声。
「な、なにこれ……」
喉を触ると、なんだかゴツゴツした感触。
ふと横を見ると窓ガラス。外は夜。
その暗い窓に映る私は――
金髪の青年だった。
「えええー!!!」
思わず大きな声が出る。
さっきまで大学生の女だったんだからこんなの驚くに決まってる。
そんな私を変なモノを見る目で眺める周りの人たち。
……いきなりキョロキョロして叫ぶ人いたらそりゃそうか。
「ユーリ様。それで、婚約破棄ですか。……そんなに私がお嫌いだと」
その状況を打ち破ったのは目の前の赤いドレスの美人さん。よく私の名前が悠里だってわかったね?
ん、なんかめっちゃ怒ってる?
「婚約破棄……?」
婚約なんてしたことがない私は怪訝な顔をしてしまう。
「ご自分から言い出しておいて、とぼけないでくださいますか!? 王太子殿下ともあろうものが……。今さっき高らかに宣言していたではありませんか!」
言われて思い返してみると、確かに目が覚める時にそんなことを誰かが言っていたような?
……。
あれ言ってたの私かー!!
この子の人生めちゃくちゃにしたところだったのね!
いやいやいや。
何もそんなタイミングで転生しなくてもいいじゃない。
そりゃ怒るわよね……。
っていうか転生先、婚約破棄した側!? そっち!?
普通、言われる側でしょこういうのって!!
「あー、ちょーっと待ってねー? いま頭の中整理するから」
目の前にはプンプン怒っている子。
横にはこわ〜いとか言いながら私の腕にしがみついてくる子。
そして婚約破棄。
……ということは!
「わかったわ! アナタ、悪役令嬢ね!?」
「誰が悪役ですか!!!」
イキイキと言った私の声の三倍くらいの音量で怒られた。
ゴメンナサイ。
「と、とにかく! ユーリ様は私と婚約されるのです! クラウディア様が私を酷くいじめてきたせいでこうなったのですから、自業自得ですわ」
埒が明かないと思ったのか、腕にしがみついている子が話を進める。
「何を馬鹿なことを! 私はそんなことはしておりません。聖女リリア、全てはあなたの自作自演でしょう! ユーリ様に何をしたの!」
目の前の赤い子がクラウディアで隣の白い子がリリアね。把握。
「はいはい、ストーップ。ケンカはそこまで。何があったのかお姉さんに話してごらん?」
私は二人の間に割って入った。
「お、おね……?」
「ユーリ様、気色悪いですわ」
二人が一歩後ずさる。
あっ、いま男の人なんだった。
「いやー、信じてもらえないと思うけど、突然さっきから中身が私になっちゃったんだよね〜。あ、私は大野悠里。二十一歳の女よ」
一応、自己紹介しておく。
「王の、ユーリ? ゆくゆくは王となる方とはいえ、殿下は王太子。さすがに王を名乗るのはいかがなものかと」
……あー。
大野悠里が王のユーリってやかましいわ。
奇跡的な誤解だなおい。
……っていうか日本語のダジャレ通用するんだ。異世界、不思議。
「クラウディア、紛らわしくてごめんなんだけど、王子様のユーリじゃなくて悠里って別の人に中身が入れ替わったのよ。まあ信じられないわよね」
綺麗な顔を怪訝と不審に染めるクラウディアちゃん。
一方、なんか愕然とした顔をしているリリアちゃん。
かと思ったら。
「ユーリ様をたぶらかす悪魔め! 消え去れ!」
突然そう叫んだリリアの手がいきなり黒く光ったと思ったら、私がその黒い光に包まれる!
なにこれ!? 魔法ってやつ!?
痛くも熱くもないその光が収まった時――
「なっ……!?」
クラウディアが目を見開く。
「あら、なんか私縮んだ?」
急に服がゆるゆるに。
余った袖が腕の先から垂れる。
声も高くなった。
子供……いや、これはどうやら女性の身体になったらしい。
さすが異世界、なんでもアリね。
元の身体とは少し違うけど、やっぱりこっちの方がなじむわー。
「……!」
そんな私をひと睨みすると、リリアは急に走って逃げ出した。
「あら?」
*
そこからは大騒ぎ。
婚約破棄騒動なんてどっかにいっちゃった。
王太子がいきなり女になったんだからそりゃみんな驚くよね。
明らかに原因であるリリアが逃げちゃったので、みんな総出で探し回っているらしい。
なので私はとりあえずクラウディアから話を聞くことにした。
「なんかごめんねー、突然のことだらけで」
クラウディアがすごい暗い顔をしていたので努めて明るく話しかける。
「いえ……。ユーリ殿下……ではないのですね」
「そ、偶然私も悠里って名前なんだけどさあ、たぶん別の世界の住人なのよ。急にこの世界にやってきたってわけ」
「そ、それではもしかしてユーリ様はそちらの世界に!?」
顔を上げて私を見るクラウディア。
目は真剣そのもの。
「うーん、申し訳ないけどそれはわからない。私もなんでここにいるのかわからないから。彼はあなたの婚約者なの?」
「はい。あ……いえ、婚約者でした。先ほどまでは……」
さっきの婚約破棄を気にしている様子のクラウディア。
うやむやになったんだから気にしなくていいのにねえ。まあ気にするかあ。大人びているけど、たぶんまだ十五、六くらいだもんねこの子。
「あんなの無効だって。安心しなさい! 私がユーリくん……なのかはもうよくわからないけど、とりあえず私が保証するわ!」
どん、と胸を叩く私。
「ユウリは優しいのですね。ふふ、ありがとうございます」
クラウディアは初めて私の前で微笑んだのだった。
「で? リリアはイジメとかなんとか言ってたけど、どういうこと?」
クラウディアいい子っぽいし、話の流れからなんとなく察せるけど。一応聞いておく。
「一切、していませんわ! あの女……聖女リリアにまとわりつかれて、いつからかユーリ様はおかしくなられてしまって……!」
握った手が震えてる。
よほど腹に据えかねているらしい。
詳しく聞くと――なんでも、リリアは一年ほど前に聖女の才に目覚めた者として王都に連れてこられたらしい。
クラウディアとユーリは国のために親元を離れて王都に来たリリアを妹のように可愛がっていたが、いつからかリリアがユーリに色目を使うようになったと。
「恋は盲目って言うけど、なにも婚約者のいる王子様狙わなくったってねー。あ、お代わりお願いします」
話が長くなってきたのでお茶をいただきながら話をしている。さすが王宮のお茶、おいしい。
「そんな可愛いものではありません! 私は神殿でリリアが誰かと喋っているのを聞いてしまったのです。リリアは権力と財産欲しさにユーリ様を狙っているだけだと……!」
あー、そっちね、そっち。正ヒロインじゃなくて悪徳聖女の方か。
「それは誰と話してたの」
「……わかりません。壁越しだったので。男性でした。二人とも下卑た笑い声をあげて、あれが聖女なのかと耳を疑いました」
「リリア、演技派ね」
私が見たリリアは聖女〜って感じだった。語彙力。
「私は、すぐにユーリ様にそれをお伝えしました。ユーリ様は、クラウディアがいるのだからそんなことにはならない、リリアにきちんと言っておくとおっしゃってくださいました」
だんっ、とテーブルを叩くクラウディア。
気配を察しカップを持ち上げたので私のお茶は無事。
「……それからです、ユーリ様がおかしくなってしまったのは! 憚らずにリリアとベタベタしはじめ、私がそれを注意するとイジメだなんだのと……」
「それで、しまいには今日の婚約破棄、ね」
「……はい」
うなだれるクラウディア。
うーん、重症だわー。この子ユーリくんのこと大好きなのね。そりゃ好きな子にあんなこと言われたらショックね。
「よし! じゃあお姉さんが一肌脱ぎましょうか! リリアとっちめて根掘り葉掘り聞いてやろうじゃない!」
ユーリくんを戻せるのか、戻したら私がどうなるかは知らないけど、このまま放っておくのもかわいそうだしね。
「いきましょう、クラウディア! リリアを探しに!」
立ち上がる私!
止める衛兵!
あれ?
「あなたはユーリ殿下の変化されたお姿と見なされております。つきましては非常事態ゆえに外出を禁ずるよう王より仰せつかっております」
えー。
「ごめんクラウディア、なんかダメっぽい」
「仕方がありませんわ。あんなことがあって、王宮としてもこれ以上なにか困ることがあってはなりませんもの」
お気持ちは嬉しいですわ、とカーテシーされる。
おお、これが本物の淑女の礼。いいもの見た。
*
部屋に通される。ユーリくんの自室……ではないようだ。客間か何かだろう。それでもそこいらのホテルの比じゃない豪華なお部屋。
ドアを開けてみる。
衛兵。衛兵。衛兵。
窓を開けてみる。
四階。絶壁。下に衛兵。
うーん、無理。
「あーあ」
ベッドにダイブ。
ぼふっ、と柔らかい布団が体を包む。
異世界、思ったより窮屈。
「寝よ寝よ」
何時かわからないけれど、来た時から夜なのでもう結構な時間かもしれない。やれることもないので私は寝ることにした。
『……!!』
夢を見た。
遠くで誰かが叫んでいるような。
『おい! おまえ!』
「ん? うおわっ」
夢の中で目が覚めた。不思議な感覚。
目の前で私の肩を揺らしているのは、忘れもしない金髪イケメン。ユーリくん。
「夢で王子様と会えるなんてロマンチックね」
『のんきな奴だな。こんなことになっても慌てすらしないのか』
「私の世界には結構こういう話転がってるから慣れてるのよ」
『……どういう世界だ』
語弊はある。しかし訂正はしない。なぜならその方が面白そうだから。
「それはそれとして。あなた、今どこにいるのよ。クラウディア泣かしちゃダメよ?」
とにかくこの男を連れ戻さないと。私も身動き取れないしクラウディアもかわいそうだし。
『おまえの中……いや、僕の中にいる。ずっと隔離された状態だったのだが、おまえが来たらここまで出てこられたのだ』
「何があったのよ。おおかたリリアになんかされたんでしょ」
『そうだ。おまえも受けたあの黒い魔法。あれを受けたら意識が隔離され、勝手に身体が動かされていたのだ』
リリアやるねー、なにその術。悪そう。
「でも私には効かなかったわよ? まあなんか、君の体が女にはなったけど」
『ああ、知っている。まったくなんということか。リリアの魔法は魂と肉体を分離して調整や操作をする魔法。僕の魂はそれで隔離され、できた隙間をリリアに使われたんだ』
「スキマ、ね……もしかしてそのスキマがあったから私そこに入り込んだってわけ? スルっと?」
『その可能性が高いな。もしかしたら名前まで同じで親和性が高かったのかもしれない』
そんなムチャクチャな。
「じゃあ女になったのは?」
『おそらく、おまえの魂が僕の体と完全には一致していなかったのだろう。それがあの魔法で魂に干渉したら体の方が先に反応してピッタリになった。そう踏んでいる』
「うーん、わかるような、わからないような。それで、これからどうすんのよ?」
『リリアを探し出して、何としても反魂の術をかけさせるんだ。あいつは僕を操りながら、見知らぬ魔術師とそんな話をしていた。僕は動けない。頼んだぞ!』
「あ、ちょっと!」
もっと色々聞きたかったのだけれど、リアルに目が覚めてしまった。
窓を見ると朝。夢の中の体感よりずいぶん時間が経っていたらしい。
「ユーリ殿下、お目覚めですか」
コンコンコン、とドアがノックされる。
「はい、起きてまーす」
殿下じゃないけど、もうめんどいから流すことにした。
「失礼いたします」
入ってきたのはメイドさんたち。
おお、ホンモノ。
「お召し物をお取り替えします」
「え」
有無を言わさず三人がかりで寝巻きを引き剥がされる。
あれよあれよと着付けをされていく。
「はい、できました」
「おおー……」
鏡に映るのは空色のドレスに身を包んだ金髪美女。いいのか、ドレスで。
部屋から出ると、衛兵とクラウディア。迎えに来てくれたみたい。
「朝食の前に申し訳ないけれど、国王陛下が速やかにユウリに会いたいとのことですわ。謁見の間にご案内しますわ」
ああ、そりゃ息子がこんなふうになったら気になるよね。
「わかったわ、案内よろしく!」
そう言ってクラウディアの手を取った。
『こらー! 勝手に僕のクラウディアに触れるなー!』
頭の中に響く声。ユーリくんだ。
「お? なにあんた、喋れるの?」
『昨夜おまえと夢で会っただろう。それの影響か以前よりも前に出てこられるようだ。女になったとはいえその体は僕のものだ! 勝手をするなよ!』
「はいはい。一歩前進じゃない、よかったわね」
「ユウリ……?」
クラウディアが怪訝な顔をする。
「あ、ごめん、なんかユーリくんと頭ん中で喋れるようになったみたいでさあ」
「ユーリ様!? ユーリ様がそこにいらっしゃるのですか!?」
がしっ、と私の頭を掴んで揺らすクラウディア。
この子も大概である。
「ちょいちょいちょい! 落ち着きなさい」
ガバッとクラウディアに抱きついて止める。
『こらー!! だ、抱きつくなどハレンチな!! そこに直れこの不埒者がー!!!』
ユーリくんの頭に血が昇ったそのとき――
ぽんっ!
『へ?』
私の意識が体の中に吸い込まれる。
「こ、これは……いだだだだだ!」
「ユ、ユーリ様!?」
なんとユーリくんが体ごと元に戻った。
男の体なのでコルセットの締め付けに悲鳴をあげている。素直にかわいそう。
『コルセットよ! クラウディアに緩めてもらいなさい!』
「なるほど!? クラウディア! 背中の紐を緩めてくれ……」
「は、はい! ただちに!」
そんなこんなで。
「ふう……まずは着替えだな……」
爽やかな色のドレスに身を包んだ金髪イケメン。
私的にそんなに悪くはないが一国の王子として問題なのはわかる。
『よし、実験。ふんっ!』
「なに? ……ぬわっ!」
私が意識を集中して戻れ戻れと念じると、またぽんっという音と共に私とユーリくんが入れ替わる。
「ほっほっほ、私の勝ちねユーリくん!」
『なんだとー!』
「ユウリ!? 何がどうなっているの!?」
「次は……うりゃ!」
またクラウディアに抱きついてみる。
『だ、か、ら、それをやめろと言ってるだろー!!』
ぽんっ!
「な、なんだ!?」
『あらあらお熱いことで』
抱き合ったまま驚いている二人を冷やかす私。
「あっ、すまん……」
「こちらこそ……」
真っ赤になる二人。若いっていいねえ。
『さっきもユーリくんが怒ったらあなたになったじゃない? それで私も戻れー! って強く念じてみたら戻ったのね。つまり、想いが強い方が前に出られるようになったんじゃないかしら』
「だから今はわざと僕を怒らせたのか。昨晩から少し様子が変わったと思っていたが、そんなことになっていたとは……」
『まあユーリくんの方が都合いいでしょ。着替えたら王様のとこに直行! 次狙われるの王様だって相場が決まってるんだから!』
「なんだと!? なぜ父上が!?」
『王族を操ろうとして失敗したのよ? もうユーリくんみたいに王様を操って無罪にさせるくらいしか手がないでしょ。国から逃げるなら別だけど』
大抵の悪徳聖女は諦めが悪いというあっちの世界での経験則にもよる。フィクションだけど。
「なるほど、急ごう。誰か! 服を用意してくれ!」
ユーリくんの声にメイドたちが集まってくる。
ドレス姿のユーリくんを見て「あらまあ」みたいな声を上げながら囲んで運んでいった。
楽しそう。
*
「父上! ご無事ですか!」
バァン! と扉を開けて謁見の間に入るユーリくん。
続けてクラウディアも一礼して入る。
「おお、ユーリ! 女になったと聞いたが何事もないようじゃな」
「はい、それも真実なのですが、今は私に戻っております。父上はお変わりありませんか」
「うむ。わしはどうもないが……今は、というのは?」
『……出ていい?』
「ああ」
『ふんっ!』
ぽんっ!
「な、なんと……!?」
現れた私を見て絶句する王様。
「お初にお目にかかります、大野悠里といいます。他の世界から来たんですが、息子さんと混ざってしまったみたいで」
「他の世界……」
「私はたぶん前の世界で死にました。そうしたらたまたまユーリくんの体に魂の隙間があって、そこに入ってしまったらしいです。まあその原因を作ったのは聖女リリアなんですけどね」
「なんと? では貴様はアンデッドの魔物のようなものか! 皆の者、ひっ捕えよ!」
あら? 風向き変わりすぎじゃない?
衛兵たちがわらわらと駆け寄ってくる。
『父上! 何を申されるか! 悪いのはリリアではないか!!』
ユーリくんが怒ってまたぽんっと入れ替わる。
見慣れた王太子を捕えるのは躊躇する衛兵たち。
「どうした! その者はユーリの皮を被った悪魔! 捕えよ!」
あー。これもう手遅れだったかな。
リリアにやられてるわこの人。
『ユーリくん! リリアは話聞きながら王様を操ってるはずだから、その辺にいるはずよ! 王子パワーとかでなんとか捕まえて!』
「なんだ王子パワーって! そんなものないわ!」
えー、ないのー?
異世界の王子様っていったら、ねえ?
「クラウディア! ユウリによると近くにリリアがいるはずだと。やれるか!」
急にクラウディアに話を振るユーリくん。
あんなか弱い女の子にそんな無茶な。
「かしこまりました、ユーリ様」
クラウディアが両手を広げ、そして何かを呟きながら前に出す。
その両手からとんでもない量の白い炎が飛び出す!
『うわわわわわ!? 焼ける! 焼け死ぬ!』
「案ずるな、彼女の炎は悪しき者を焼く。正しき者は焼かれんよ」
そんなこと言われても、私聖人でもなんでもないから少し焼けたりしない?
しかし確かにその炎はユーリくんも私も素通りする。大広間を覆うほどの炎になったと思ったら――
「ぎゃあああああ!」
玉座の裏から転がり出るリリア。
うーん、みんな無事なのに一人だけ炎に包まれて転がってて、これほどわかりやすい悪がいるだろうか。
「くっ……!」
炎は止み、リリアは見た目焦げてもないけれど、結構なダメージは負っているようだ。
「ふん、代々宮廷魔術師を務めるフォーディン公爵家の中でも天才と呼ばれるこの私、クラウディア・フォーディンから逃れられるとでも?」
クラウディアがどこから出したのか扇を広げて決めポーズしてる。
悪役令嬢っぽーい。
っていうかめちゃめちゃ強かったのねこの子。
「これで一件落着、だな」
いやー、リリア諦め悪そうだからどうかなー。
ユーリくんは「ふぅ」とひとつ息をつき、クラウディアの方を見る。
そんな二人の一瞬の隙をつき、立ち上がって脱兎のように走り出すリリア! 毎度逃げ足速いなこいつ!
『やっぱり! こら! まちなさーい!』
瞬時にぽんっとチェンジし、脇を通り抜けようとしたリリアの横っ腹にタックル!
「ぐぇ! あがっ……!」
もんどり打って転がって柱に激突するリリア。
「ただの平民タックル、思い知ったか」
腰に手を当ててドヤ顔で立つ私の前で、リリアは衛兵にぐるぐる巻きにされていたのだった。
そこからのお説教タイムはリリアには恐怖だったろう。
ぽんっ!
「リリア! あんたねえ、こんな純粋な子に罪着せるなんて許されるわけないでしょ!」
ぽんっ!
「全くだ! 自分の欲のためにこの僕を操り、愛しのクラウディアを陥れるなど!」
ぽんっ!
「だいたいね! ……」
ぽんっ!
「おまえはだな!……」
ぽんっ!
延々、私とユーリくんが激しく入れ替わって説教していたのだった。たぶん見た目相当怖いと思うこれ。
その後も怒りに任せて入れ替わり続けていたところ――
ぽぽんっ!
「おおっ!?」
「んんっ!?」
なんと二人に分離した!
「ユーリ様!? それにユウリ!?」
クラウディアが私たちを見回して目を白黒させている。
ちなみに服もちゃんと同じものを着ている。ゲームならバグってキャラが増殖したって感じ?
「あー、なんか遠心力的なアレでスピンアウトしたみたいな?」
「何を言っているのかわからんが、少なくとも高い負荷が影響した、のだろうな……」
「まあ結果オーライね」
「違いない」
ユーリくんとガッチリ握手する。
「さて、それはそれとして」
『リリア!』
私とユーリくんの声が見事にハモったのだった。
*
その後、リリアは肉体的ダメージと私とユーリくんからの精神的ダメージで逃げる気力も失ったようだ。
「聖女で満足しておけばよかったのに、バカな真似をしたわね」
「ぐっ……お前さえ! お前さえ来なければ!!」
私を睨むリリア。
「私も来たくて来たんじゃないけどね、私が来ちゃうスキマを作ったのあんたでしょ。自業自得よ」
「その女より、私の方がユーリ様には相応しいのよ!! 金だって権力だってうまく使ってやれるのに!! わかるでしょう!!」
「……何があなたをそうしてしまったのでしょうね。王家に仇をなす行為をしてしまったのです。覚悟はしておきなさい」
冷静にそう言うクラウディアの目は、いくらかの悲しみを宿していた。
「……!」
クラウディアから目を背けるリリア。
「あのー、ユーリくん。これって容赦とか恩赦とかは……」
覚悟って、そういうコトよねー。仕方ないだろうけどねえ。
「そうだな、父をまず元に戻してもらおうか。話はそれからだ」
「……わかったわよ」
リリアが手を伸ばすと、王様が黒い光に包まれ、その光がリリアの手に戻って収束する。
「む……ここは……」
王様が目を覚ます。
「よし、連れて行け! 対魔法拘束を忘れるな!」
ユーリくんの号令で衛兵たちがリリアを何かで包んで連れて行く。
「ちょっ、恩赦は! ちゃんと元に戻したでしょう!!」
リリアが暴れているけど、衛兵に力で敵うはずもない。
「沙汰は追って公平に下す。とても軽ければ島流しで済むだろう」
おー、ユーリくん容赦ない。オブラートに包んでるけど、軽ければってことは、ねえ。
ピュアで若いけど、彼もまた王家の一員ってことか。
「クラウディア。操られていたとはいえ、あんなことを言ってすまなかった」
「……いえ、心配しましたのよ。元に戻ってよかった。本当に」
クラウディアはユーリくんに控えめに身体を預ける。
少しためらってから、優しくその背中をギュッとするユーリくん。
「うむ! 二人の婚約はもちろん継続しておるとここに改めて宣言しよう! フォーディン公爵令嬢よ、そなたに一切の非はなかった。わしからも詫びさせてくれ。すまなかったな」
王様も頭を下げる。できた王様。
「ならびに、窮地に降臨し救いをもたらした英雄ユウリよ! そなたにもできる限りの褒美を取らせよう。ただ、異世界から来た者に何を与えたものか検討させて欲しい。まずはゆっくりしてくれたまえ」
おお、なんか貰えるらしい。英雄って。こそばゆいなあ。
*
それから二日。
リリアの沙汰は、あまりにも前代未聞ということで、結論が出るまでしばらくかかるそうだ。とはいえ王太子と王に手を出したのだ、軽くはないだろう。
ちなみに神殿からは即日聖女の肩書を剥奪され、切り捨てられたらしい。
あと謎なのはリリアが話していたという男、ユーリくんいわく魔術師。この男は騒ぎが大きくなる前に逃げたようだ。王国が指名手配し、総力をあげて捜索にあたっている。
昼下がり、王宮の中庭のガゼボ。
「これからどうするのだ、ユウリ」
クラウディア、ユーリくん、私の三人でお茶会中。
なし崩しで王宮に居候させてもらっているけど、考えてみれば不安定な身分だ。
王族とか貴族とかいう前に、私この国の国民ですらないんじゃないかな? 英雄ってなに? 身分?
「どうしましょ。いきなりすぎたから何も考えてないわ。英雄だったら一人旅にでも出るのが定番かしらね」
「なんの定番ですか。女の一人旅なんて死にに行くようなものですわ」
「やっぱり? そんなお話みたいにはいかないよねえ」
モンスターとかいるのか知らないけど、中世くらいの治安って考えたらそりゃそうよね。
「ユウリ、あてもないなら、よかったらここに住まないか」
「あら嬉しい。こんな美人のお姉さんだからそばに置いておきたくなっちゃった? クラウディアがいるんだから私に惚れちゃダメよ?」
「まあ! ユウリ! とっとと旅にでもなんでも出ていきなさい」
ちょっとからかったらすーぐこれ。ほんとにピュアなカップル。
「誰が惚れるか! だいたいおまえは僕の女版みたいなものだろう。母上みたいな顔をしおって、惚れようがない」
「そりゃそうね、身体的には双子みたいなものだろうし」
そんな会話の横でほっとしているクラウディア。
「そうだ、国賓として迎えるように父に頼んでみよう。望むなら爵位も授けられるだろう」
ぶっ!
いきなり爵位とか言われてお茶をリアルに吹き出してしまった。
「汚いなあ。爵位を授けるには淑女としてのマナーを学んでもらう必要がありそうだな」
「あら、でしたら私がお教えしますわ」
クラウディアにはどちらかというと魔法を教わりたいけど。私に使えるのか知らんけど。
ヘンテコな異世界生活の始まりだったけど、まーなるようになるでしょ!
死んだはずなのに、今こうしておいしいお茶いただけてるんだもの。儲けもん儲けもん。
「じゃあ、しばらくご厄介になります! ……あまり堅っ苦しいのはやめてよ?」
ポジティブにいきまっしょー!
お久しぶりです!
お読みくださりありがとうございました。
お気に召しましたら評価や反応をいただけると嬉しいです。




