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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

婚約破棄には決闘を――私の家貧乏ですので、熊狩り程度はお手の物です

掲載日:2026/06/19

「アルタイナ!お前との婚約を破棄する!貧乏くさいお前の顔など二度と見たくないわ!」


 学園広間に響きわたるクラブ男爵令息の声。彼は隣にいる他クラスの女性の腰に手を回していた。明らかに距離感が近すぎる。

 あぁ、そういうこと。もはや言い訳を聞くまでもないわ。――私の事が邪魔になったのね。


「クラブ様とレイルナ様の熱愛って……」

「やっぱり噂は本当だったのね……」

「アルタイナさん、可哀想……」


 私たちの周りを取り囲むようにして集まってきた生徒の皆様は、ザワザワと揺れ動く。


「承知いたしましたわ――ただ一つ、お願いがありますの」

「ふん、なんだ。言ってみろ?」

「今までお渡ししてきた物を返していただきたいのです。――ご存じの通り我が家はしがない子爵家ですので、あまり贅沢は出来ないのです」

「本当に貧乏くさい奴だ。婚約破棄された相手に物乞いするなんてな――まあ、いい。俺もお前からもらった貧乏くさい物の扱いに困っていたところだ。婚約者だからプレゼントは仕方がなく身につけていたが、正直邪魔でな。ちょうど良い。この刺繍が入ったやつは今返してやろう」


 クラブはそう言って、白い手袋を外し、投げつけてくる。

 私が去年の誕生日にあげた、名前の刺繍が入った手袋だった。地面にポスッと落ちた手袋を、私はゆっくりと拾い上げる。 


「確かに、クラブ様のお気持ちはしっかりと受け取りましたわ」

「……気持ち?」

「はい。――私と決闘をしたいというお気持ちです」


 私は拾った手袋を、近くにいたクラスメイトのマリナに手渡す。

 マリナは展開に驚きながらも、それを受け取った。


「手袋を投げられた。今みたいに手渡すことも出来ましたのに。――明らかに決闘の誘いですわよね。その誘い受けてあげますと言っているのです」

「なっ!それは男同士の話であって」

「――まさか、私と決闘して負けるのが怖いのですか?」

「ハァ!?なわけねーだろ!――良いだろう!決闘してやろうじゃねぇか!」

「本来なら仲介人を通して場所を決めるのがマナーですが……ちょうど見物人の皆様もいらっしゃることですしここでやるのはいかがですか?」


 私は履いていたヒールを脱ぎ、並べて隅の方に置く。裸足に大理石の床がひんやりと心地よい。


「良いだろう。ルールは双方素手、相手が気絶するか降参すれば終わりでよいな?」

「もちろんよろしいですわ――マリナ、開始の合図を頼んでもよろしくて?」

「は、はい!」


 巻き込んでごめんねマリナ。今度熊鍋、作って差し上げますわ。

 双方簡単な準備を整え、マリナに合図を出す。唾を飲み込む学園生徒達の音。マリナもゆっくり呼吸する。


「始め!」


 広間にマリナの声が響きわたると同時に、クラブが突っ込んでくる。自領の騎士団に参加して訓練していると言うだけはある細かな動き。目がクラクラする。右に左に揺れながら放たれる拳。私は何とかガードするので精一杯だ。


「一方的じゃないか……」

「アルタイナ様、痛そう……」

「弱いのにケンカ売ったの?……」


 観客も一方的な展開に、ひそひそと思い思いしゃべっている。


「おいおい、あれだけ啖呵切ったくせにそのざまか!?」


 クラブからの安い挑発。――でも我慢だ。一撃の隙で十分なのだ。


 クラブは連続で殴り続けていたが、思ったよりも私が倒れないからか、疲れたからか、殴る手を止め少し距離を取ろうとする。

 ここだわ!


 私はカウンターの形で拳を前に突き出す。ガードの構えをとるクラブ。でもそんなの関係ない。

 私の拳を受けた彼の左腕は、グニュッっと変な方向に曲がる。明らかに人間の可動域ではあり得ない方向。観客から悲鳴が上がる。クラブも苦痛に顔をゆがめる。だが、そんな事で止まる拳ではない。

 腕をへし折った私の拳は、そのままクラブの顔面にめり込む。クラブが吹っ飛ぶ。顔面に導かれるように、体が宙に浮く。先ほどまでくっついていた女性を飛び越え、その先の壁に叩きつけられた。


 ドギャン!!


 壁からすさまじい音。見るとそこには、気絶しているクラブがいた。左腕は明らかに骨折をしており、頭からは血が垂れ流れている。殴られた顔面は、一呼吸置いてどんどん腫れ上がり始めた。

 周りの観客も皆、言葉を失っていた。


「……しょ、勝者!アルタイナ!」


 マリナがハッと我に返り、声を上げる。その台詞を皮切りに、生徒の皆からドッと歓声が上がった。鼓膜の奥に響くような歓声でも、クラブが起き上がる気配は全く無かった。


「私の家貧乏ですのでよく熊狩りをやっているの。それで力だけはつきまして――って聞こえていませんわね」


 私は右の拳を左手で払い、広間の隅で私を見て震えている、先ほどまでクラブに腰を抱かれていた女性に微笑み返した。彼女は恐ろしい物でも見たのか、顔色が青を通り越して紫色になっていた。

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― 新着の感想 ―
「今までお渡ししてきた物を返していただきたいのです。」からの展開が綺麗で、サクッと読めました。 やはり暴力……!!暴力は全てを解決する……!!
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