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同じ形の波は無い

今日は梅雨の中休みで青空が広がっていた。

朝から日差しがきつく日当たりの良い玄関のドアがほんのり温まる位の気温。

先週は雨続きでずっとジメジメしていたが空気もカラッとしており過ごしやすい一日。

こんな日は真面目に一日セコセコすごすのがもったいなくなる。

よくある小説なんかだと人生に疲れたサラリーマンが普段乗るギュウギュウの通勤電車にうんざりして様々なストレスから逃げるために反射的に逆方面の電車に飛び乗って気が付いたら海に来ているというシチュエーションが思い浮かぶ。


駅を降りてコンビニでビールを買い海まで歩いて行って砂浜で腰を下ろしてプルタブをカシッと起こしてグイッと呷る。

まだ午前中でシーズン前の海には人影はまばらである。

ネクタイを緩めて砂の入った靴を脱いで靴下も脱いで足を延ばす。

空にはトンビがピーヒョロロと鳴きながら旋回している。

太陽は夏の気配をにじませながらも強烈な日差しではない。

もう一口ビールを飲んでつまみも買えばよかったかなとぼんやりと思う。

会社にはもちろん連絡を入れておらず、ひっきりなしに携帯電話が鳴ったがそれに出る度胸も無いので電源をオフにした。

ザザーン、ザブーン、シャワワッと寄せては返す二度と同じ形にならない波をボンヤリと見つめる。

頭の片隅にああ、とうとうやっちまったという反省とこの開放感を独り占めしているざまあみろと言う感情がないまぜになる。

白い絵の具と黒い絵の具がごっちゃに混じって薄汚い灰色が心の中に侵食してくるのを振り切るようにビールに手が伸びる。

ほどなくして飲み切ったビールの空き缶をメシャッと手で握りつぶして、再び海を眺める。

海は何も言わないし語りかけても来ない。

思えば昨日は最悪だった。

五年間付き合った彼女から別れを告げられた。

震える声で理由を聞くとあなたはいつだって自分の事ばっかりで私のしてほしい事に気が付いてくれなかった、昔はあんなに優しかったのに最近は仕事、仕事でちっとも私の事を見てくれていなかったじゃない。

だって、それは…二人の将来の事を考えてと口に出そうとしたら彼女から他に好きな人が出来たのという冷たい言葉が返ってきた。

まるで鋭利なナイフで刺されたような痛みが胸を疼かせる。

もうダメなのか俺たち…と一縷の希望を託して言葉を絞り出す。

永遠とも思える沈黙が続く。

立ち尽くす二人の間にはかつてあった温もりがもはや無い事を如実に示していた。

サヨナラ、置いてある荷物はまた取りに来るからと極めて事務的な口調でそう呟いて彼女はドアを閉めた。

バタン。

そのドアの閉まる音の後から記憶はあまりない。

気が付けば床に突っ伏して眠っておりテーブルの上には空になった缶ビールとウイスキーの空き瓶が転がっていた。

…ああ、俺ってばいつもこうだ。

頑張れば頑張ろうとするほど空回りして周りが見えなくなっちまう。

良かれと思ったことが裏目にばかり出るのは性分なのだろう。

そう頭の中で独り言ちて再び海を眺める。

波は穏やかで寄せては返す姿は今の俺には優しさすら感じる。

太陽が段々真上に登ってきてさすがに少し汗ばむようになってきた。

こうしていても何にも解決しないか。

とりあえず今日は何も考えないでこの名前も知らない港町で一日過ごすことにしよう。

それだけ決めて、裸足のままで立ち上がって砂浜を歩く。

一歩一歩踏みしめる度に足の指と指の間に砂がキュウッと入り込んでくる。

この感覚を味わうのはガキの頃以来だな、そういえばアイツ元気かな。

遠い昔に朝から夕方まで海でひたすら遊んだ幼馴染の顔が浮かんでくる。

俺もアイツも鼻たれ小僧で学校指定の海パン一丁で泳ぎまくっていた。

今はもうあんなにははしゃげないな…と少したるんできたお腹の肉をつまんで自嘲気味に口角が上がる。

さてと、これからどうすっかなぁと色々な意味を含んだ言葉が頭をよぎりつつ、とりあえず酒だなと昼間から飲めそうな観光客相手の居酒屋のドアに手をかけるのであった。

…はっ!、思わずベタな物語の妄想が捗ってしまったがこの続きを書いて行ったら一万字ではとても収まらないのでこの辺りで止めておきます。

逃避願望、誰しも心の中にちびっとはある感情ですよね。

こんなはずはないさ、それは分かっていると福山雅治も歌っている事ですし、つまずきかけた人生にはつきもののテーマだと思います。

私もここまでじゃないですがうんと若い頃は何かってーと海を眺めに行ったものです。

こんな穏やかなシチュエーションじゃなくてカップルがウジャウジャいる甘~い空気の中で一人でぽつねんと佇むのはなかなかにいたたまれなくて自己肯定感がグングン下がっていくのを感じたものです。

加山雄三や石原裕次郎のように海を愛し海に愛された男に憧れましたねぇ。

これからが夏本番、ビーチではこの妄想男のようなしみったれた感傷的な人はいなくてナンパ目的のパリピがわんさか湧いて出るんでしょうね。

悪いけどおじさんはもうそういう世界からは足を洗ったんで。

この何をしても上手くいかない空回り人生男が私の自己投影なのかどうかは皆さんのご想像にお任せします。

以上、今日はいい天気だったなぁと疑似?私小説の二本立てでお送りしました。

続きが気になる方もいないと思いますが好評でしたらいつか続編的な物を書いたり書かなかったりするかもしれません。

なーんてね。

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