【一言の魔法、映画の記憶 #39】『私ときどきレッサーパンダ』─ “いい子”をやめる、その瞬間
ピクサー最新作の公開、そして『トイ・ストーリー5』への期待が高まるなか、あの作品への熱が静かにぶり返している。
『私ときどきレッサーパンダ』——2022年公開のこの作品を、今こそ書かずにはいられなかった。
🎬 一言の魔法
“I'm Changing, Mom. I'm Finally Figuring Out Who I Am, But I'm Scared It'll Take Me Away From You.”
変わっていくの。やっと自分がわかり始めたの。でも、それであなたから離れてしまうのが怖い。
この一言に、「成長」と「怖さ」と「愛」が全部詰まっている。
🎬 あらすじ
伝統ある寺院の娘である13歳のメイメイ。 勉強も家のお手伝いも完璧にこなす、優等生な女の子。
そのすべては、大好きなお母さんに認めてもらうため。
でもメイメイは思春期真っ只中。 友達とカラオケに行ったり、推しのアイドルに夢中になったり、カッコいい店員さんにときめいたり——そんな楽しいこともしたいお年頃。
そんなある日、秘密のノートを母に見られてしまい、感情が大爆発。 翌朝、目が覚めるとメイメイは巨大なレッサーパンダに変身していて——?
🎬 感想
まさに、"オタクが作ったオタクのための映画"。
推しがキラキラして見えるあの高揚感とか、妄想がとまらなくてひとりでニヤニヤしてしまう瞬間とか——画面の中のメイメイたちの体験が、自分の記憶とぴったり重なって、気づけば完全に仲間になっていた。
この作品の軸にあるのは「母と娘」の関係だ。 正直、お母さんの存在感は強烈で、「やりすぎでは?」と感じる場面もある。でも、あの強さには理由がある。娘を守ろうとするあまり、どこまでも踏み込んでしまう——そういう愛し方をしている人を、現実でも見たことがある人は少なくないはずだ。だからこそ、その圧力に挟まれながらも「自分らしさ」を見つけていくメイメイの姿が、痛みをともなってリアルに映る。
"いい子でいること"と"自分でいること"。 その間で揺れる気持ちの描写が、誠実で、苦しくて、それでいて愛おしい。
映像も印象的だった。 2Dっぽいポップな線と3Dのモフモフとした質感の融合は、画面に触れたくなるほどの存在感がある。あのふかふかした橙色のシルエットを見ているだけで、なぜか安心する。
そして忘れてはならないのが、4★TOWN。 ちょっと笑えるくらいリアルな"アイドル感"と、同じものを好きな仲間と感じる一体感。あの「みんなで盛り上がる高揚感」こそが、作品全体のトーンを底上げしていると思う。
思春期の面倒くささも、愛しさも、親子の歪みも、全部ひっくるめて——「自分でいること」を肯定してくれる映画だった。軽やかでポップなのに、しっかり心に刻まれる。ピクサーらしい誠実さが詰まった一本。
🎬 映画情報
【監督】ドミー・シー
【脚本】ドミー・シー、ジュリア・チョ
【出演(声)】ロザリー・チアン、サンドラ・オー、アヴァ・モース、マイトレイ・ラマクリシュナン ほか
【上映時間】100分
【公開年】2022年
【製作国】アメリカ
【ジャンル】アニメ/コメディ/ファンタジー/青春
