ポシェットギャンブラー単&複〜ダンスダンスダンスVSダンスインザダークVSダークライ〜
真皿市に住む古賀サトシは馬券マスターを目指す少年である。
「鍛えた予想で勝ちまくり、資金を増やして次の開催へ!いつもいつでも上手く行くなんて保証はどこにもないけどな!」
誰にともなく言うと、光中学校通学用を示す『光中』と書かれた反射シールの貼られた自転車「稲妻号」に飛び乗って走る走る。その肩に襷がけした社台レーシングの勝負服柄ポシェットには、投票用マークシートの束と筆記用具、そして必中データをびっしりと書き込んだ秘密のメモ帳が入っているのだ。目指すは府中、東京競馬場である。
渋滞に目を血走らせるドライバーを尻目に、サトシは軽やかなスピードで正門を通り抜けた、とその時、突如目の前にJRAのマスコットキャラ、ターフィーくんが!
あぶない!!!
急ブレーキをかけるも止まりきれずに転倒したサトシを、これまたどこから現れたのか緑色の制服を着た一団が取り囲み、頭にすっぽりと黒い袋を被せて視界を奪うと、待機していたライトバンに押し込んで何処かへと走り去ってしまった。側からは怪我をした少年を迅速に救護しているようにしか見えなかっただろう。果たしてJRAの職員に扮した彼等は何者なのか。そしてサトシの運命やいかに⁉︎
視界を奪っていた復路が取り去られると、サトシは窓ひとつない広めの倉庫のような空間にいた。正面の大型モニターには今しもゲートが開き、走り出した馬の映像が流れている。一目見て、競馬場内で流れているレース映像であることがわかった。感覚では移動時間も5分ほどに過ぎない。ということは東京競馬場内のどこかなのであろうか。
そしてモニターの前に逆光で立っているフォルムは、見間違うはずもない、先刻突然サトシの前に現れたマスコットキャラ、ターフィーくんである。いや、ターフィーくんは何体もいるだろうから、同じターフィーくんがどうかは判別できないが、とにかくターフィーくんである。
「古賀サトシだな」
いきなりターフィーくんは言った。
サトシはターフィーくんが喋るのにも驚いたが、それよりもターフィーくんが自分の名前を口にしたことに驚いた。
「なぜ俺の名を⁉︎」
「有名だからな。警備員の眼をかいくぐって馬券を買い、払い戻しを手に消える中学生。しかもその回収率は300%を超えるときている。君の買い目や行動は完全にモニタリングされていたのだ」
なんということか、サトシはターフィーくんを睨みつけた。
「目的は何だ」
「まあ焦るな。なにも今すぐ警察に突き出そうというのではない」ターフィーくんは心なしか楽しげな口調で言った。「というわけで古賀サトシ、ようこそ府中ジムへ。私がジムリーダーのターフィーくんだ」
見ればわかる、と思ったが問題はそこではない。
「ジム⁉︎ 何だそれは!」
ターフィーくんはそれには答えずに淡々と続けた。
「我々は違法行為を監視し取り締まる組織、裏JRA、ARJのエージェントなのだ。その最大の目的はノミ行為の撲滅、だが、そのための潜入捜査には相手を上回る知識が必要だ。馬券を当てまくり、組織を破産させるくらいの能力がな。その能力者の実力を試すための、闇の馬券勝負場、それが馬券ジムなのだ。君はその候補に選ばれたというわけなのだよ」
「よくわからないが」サトシは語気鋭く言い放った。「俺は馬券マスターになりたいだけだ!おまえたちに協力する気はない!」
「ならば親と学校と警察に連絡するまで。それとも勝負する自信がないのか」
「勝負だと?」
「そうだ、馬券勝負だ。おまえが勝ったら、これまでとこれからの違法投票を黙認しよう。悪い話ではあるまい」
そう言ってターフィーくんはほくそ笑んだ。いや、着ぐるみだから表情は変わらないのだが、その口調がほくそ笑んでいるように響いたのである。
「もし負けたら?」
「おとなしく我々の仲間になってもらおう。断るならば通報だ。おまえは二十歳まで馬券は買えない」
つまり彼等はサトシの違法行為を利用して逃げ場のない状況を作り上げているのだ。恐るべし裏JRA、その名もARJ!しかもサトシはが勝ったらそれを不問にしようというのだから、相当の自信があってのことであろう。間抜けな顔のターフィーくんの着ぐるみは、罠だ。
だが、サトシはニヤリと笑った。
「ナメるなよ。俺は馬券マスターになる男だぜ!」
「よし。勝負は次の10レース、ユートピアステークスだ。買い目は単勝もしくは複勝一点だ」
勝負は単複というのが馬券の基本である。此奴、ターフィーくんみたいな顔をしているができる、とサトシは気を引き締め、ポシェットから秘密のメモ帳を取り出す。そして宣言した。
「俺の買い目は2番の複勝。ダンスダンスダンスだ!」
「何だと!」
ターフィーくんが驚愕の叫びを上げた。
「ダンスダンスダンスは9番人気だぞ!」
「ああ、わかっている。しかし昨年のこのレースの2着馬だ。狙いはここだ。近走は度外視していい」
ターフィーくんはふっと笑った。いや、顔は笑っていないのだが、声が笑っていた。
「では私はフィルードヴォンの単勝だ」
フィルードヴォンは単勝2.4倍、断然の一番人気である。
「こちらの買い目を聞いてからそんな馬を買うのか。卑怯だぞ!」
「何を言う」ターフィーくんが冷徹に反応した。「オッズがどうであろうと結果には関係ない。要は馬券になる馬を選べるかどうかなのだ。そんな台詞を吐くようでは、期待はずれだったかな少年」

「何故だ!」ターフィーくんはその場で膝からくずおれた、が、表情は変わらないので器用に躓いたようにしか見えなかった。
「確かに堅い選択見えたけどね」と、勝ち誇るでもなくサトシは言う。「逃げ馬でもない断然の一番人気が内枠、馬群に包まれるのは目に見えていたじゃないか。じゃあ、約束通り見逃してもらうぜ。これからメインレースだ」
「……ここではな」呪うようなトーンでターフィーくんが呟く。
「何だと」
「東京競馬場では、という意味だ。言っただろう、おまえは既にARJにマークされているのだ。自由に馬券を買うためには、各競馬場のジムリーダーを倒さなければならない」
サトシは一瞬の放心のあと、表情を崩して言った。
「おもしれえ。おまえらがノミ屋をぶっ潰すか、俺がおまえらをぶっ潰すか、どっちが先か勝負しようぜ!」
(続く)(続かないけど)
【予告】
第二話「ダンスインザダークは淀の3000で差し切れるのか⁉︎〜京都競馬場編〜」
第三話「地方競馬の罠!穴馬ダークライに賭けろ!〜水沢競馬場編〜」
乞うご期待!ないけど!
