悪の天才が時に野心を抱き
【古賀コン8参加作品なのかよ】
……世界征服を夢見た時に君はどうする、君はどうするんだ、えっ、どうするんだねハギワラくん!
そう問われたハギワラは力強く言った。
「もちろん闘いますよ。蹂躙されて黙っているはずがないじゃありませんか!」
「よくぞ言った! それでこそ私の助手、いや片腕だ!」
それから十年。
ロボット工学の最先端と謳われていた古賀研究所は何の成果も発表しないまま、愛想を尽かした研究員は次々と引き抜かれ、あるいは自ら去っていった。未来を担う天才として名を馳せた古賀博士もまた「あの人は今」状態であることを否定できない。それどころか研究所に顔を見せることすら稀になって久しいのだった。そんな中であってもハギワラが実質的留守番の役割を続けているのは、あの時の博士の言葉があったからかもしれない。きっと古賀博士は秘密裡にすごい開発をしているに違いないのだ。なんかほら、無敵鋼人とか戦国魔神とか宇宙大帝みたいなやつを密かに作っているのだ。ハギワラは古賀博士に浸水しているのである。間違えた。心酔しているのである。転載だと、違う、天才だと信じて疑わないのである。おのれ予測変換。だから誤字だらけになるんじゃねえか。
だが、ようやくハギワラの祈りが実を結ぶ時が訪れたのだ。
「遂に完成したぞハギワラくん!」
突然研究所に現れた古賀博士は、入口のドアを全力で開けながら叫んだ。
「何がですか!」
ハギワラも全力で尋ねた。
古賀博士も負けじと全力で答えた。
「スーパーロボット、マッパバロンだ!」
(ここでYouTubeを開いて『スーパーロボットマッハバロンOP』を聴こう)
マッパバロンは体長50メートル、重量300トン、真紅の戦闘用人型巨大ロボットである。超小型原子炉「KOGAXⅢ」による出力は200万馬力、最高速度マッハ15での単独飛行能力を備えているのだ。
更にはバイオ・フィードバックシステムの採用により直感的な操縦を可能にし、予測機動による極めて迅速かつ正確な挙動、搭載したAIによる半自動操縦をも可能にしているまさにスーパーロボットなのである。
古賀博士は防衛省からの極秘の依頼を受けて、国連からも資金を調達し、近所の公園の地下に建造した秘密工場で、来るべき危機に備えた戦闘ロボを開発していたのである。
「素晴らしい!」説明を受けたハギワラは思わず絶叫した。「やはり古賀博士は正真正銘の天才だ!」
「おおそうか! 私も薄々そうではないかと思っていたのだ」
などと話しているその時である。
研究所の大型モニター・スクリーンが勝手に起動して、映し出されたのは巨大な黒いロボットが街を破壊している光景であった。まるでこの時を待っていたかのような嘘っぽいタイミングではないかとハギワラは思ったが、もちろん口には出さなかった。かといって何も言わないのも絵面としておかしいので、取り急ぎ「何だあれは!」と叫んだ。
と、再び画面が切り替わって、今度は白い髪を箒のように逆立てた顔色の悪いおっさんが現れた。
「あなたは!」古賀博士が驚愕した。「ロボット工学の革命児と言われながら、無認可の破壊兵器開発で学界を追われ、ずっと行方不明とされていた天才科学者アラーシュタイン博士!」
古賀の説明感200パーセントの台詞を待って、アラーシュタインはぬははははと不敵に笑った。
「その通りだ古賀博士。私は私の開発したロボット軍団をもって、この馬鹿げた世界を征服することにしたのだ。世界は真の天才こそが支配しなければならないのだ」
「そんなことはこの私がさせん!」
「ならばどちらが天才の中の天才か、勝負だ古賀博士!」
「ハギワラくん!」
古賀博士はハギワラに向き直った。
「マッパバロン、出撃だ!」
「え?」
「君が乗るのだ、シンジくん」
こんな時だけ名前で呼ばれても。
「そもそも君しか乗れないのだ。マッパバロンのバイオ・フィードバック・システムは君の生体データに調整されているのだ」
「聞いていません!」
ハギワラは抗議した。
「言っていないからだ」
古賀博士は平然と答えた。
ハギワラは全裸で操縦席に座っていた。
「なぜ服を脱がなければならないのですか!」
「皮膚表面をモニタリングしなければ正確なバイオ・フィードバックができないからだ。全裸でこそ、その巨体を自分の身体の延長のように操ることができるッ!」
(そうか、だからマッパバロンなのか)
ハギワラはそのネーミングの真意に愕然とした。
それにしても、寒い。
「我慢したまえ。コックピットは精密な電子機器の集合体だ。万が一にも誤作動を起こさぬよう、気温は7度に固定されている」
才能とは付加された能力ではなく、欠損の歪んだ補填だと聞いたことがある。ハギワラはその意味をようやく身をもって実感した。
「敵がこちらに気付きました! 武器はどこですか!」
ハギワラの悲鳴が研究室のモニター・スピーカーから響く。だが古賀博士は悠然と答えた。
「落ち着きたまえハギワラくん。マッパバロンの武装システムは音声入力だ。君の声で武器の名を叫べば、自動的に攻撃することができるのだ。どうだすごいだろう」
「その名前がわかりません!」
「安全装置解除レバーの横に、武装一覧のメモがセロテープで止めてあるだろう」
「字が汚くて読めません!」
なんという迂闊!
「仕方がない。私が攻撃の指揮を取る。まずは『ミサイルパンチ』だ!」
「ミサイルパンチ!」
ハギワラが叫ぶと、水平に伸ばした右腕の手首から先がジェット噴射の炎とともに切り離されて、空飛ぶ拳となって黒いロボットを襲う、のではなく、胸のシャッターが開いて2発のミサイルが発射された。
まぎらわしい!
しかし、命中したミサイルはロボットの表面装甲を大破させ、爆風が巨体を地面へと薙ぎ倒した。
「よし、その調子だ。次は……」
「そこまでだ!」
突然、俺の部屋のドアを蹴り開けて、黒い戦闘服の集団がなだれ込んできた。構えたライフルの銃口が一斉に俺を狙う。
「な、な、なんだなんだ君たちは!」
俺はあまりのことに立ち上がることさえできずに喚いた。
先頭の男が言う。
「我々は泣く子も歌うJASRAC機動部隊だ。この作品は著作権法に明らかに抵触している。すぐさま書き直せ。さもなくば消去しろ!」
「なぜ書いている最中にわかった!」
俺が声を裏返しながら問うと、男は喉の奥で笑った。
「貴様がダウンロードして使っているその無料テキストエディタには、我々のマルウェアが仕込んであるのだ」
なんということか。俺の書くものはリアルタイムでモニタリングされていたのだ。壁に耳あり柱に白アリだ。
だが、書き直せと言われても、規定の一時間にあと5分しかない。こうなったら、無理矢理話を終わらせるしかない。
「博士……」
ハギワラが突然うめくように言った。
「冷えたせいで、急にお腹が……」
「いかん! このままでは初陣当日に事故物件ロボットになってしまう! ハギワラくん、必殺武器『マッパコレダー』だ!」
「ダメです……間に合いません……」
「ハギワラくん? ハギワラくん!」
それっきり通信は途絶えた。いや、途絶えたわけではなかった。スピーカーからはハギワラのかすかな低い泣き声がずっと流れ続けていたからである。
「消去しました」と、俺は言うだろう。そして実際に消してみせるだろう。男たちはPCを押収するかもしれない。
だが遅い。この原稿はその時、既に暗号化されたクラウドの中に移動しているだろう。
止められるなら止めてみろ。
俺たちはみな、孤高の天才だ。
誰の指図も受けぬ。
ま、未満だからアマチュアなんだけどな。
(了)
