教室の住人たち|忘れ物
毎回毎回忘れ物をする中学生の男の子がいた。
陽気な感じの男の子。
なんでも楽しむタイプの子。
塾に来るのも遊びに行くのもなんだか楽しそうな感じ。
でも、塾に来るたびに何か忘れ物をする。
ノートを忘れる。
次の通塾では、テキストを忘れる。
また次の通塾では、今度は宿題。筆箱。
入塾して2か月たっても改善する気配がない。
ほんとに困った。
本人はへらへらしている。学校でもそうらしい。
さすがにこちらも堪忍袋の緒が切れそうになるが、本人も忘れたくて忘れている感じではない。そういう自分に慣れているみたい。
ただ、あっちを意識すると、こっちに意識がおろそかになる。そんなことの繰り返し。
連絡帳に持ってくるものを書いてもらっているが、準備の時に開いているのかすらあやしい。
「手に書いてきます。」
というものの
「次回の通塾までに書いたものは残っているんか。」
「残っていません!」
忘れ物を本人の意識に頼るから、改善しないよな、なんて思ってました。
仕組みを考えなければ。
本人は嫌だろうけど、しょうがない。
A4のコピー用紙に常に持ってくるものを大きく書き、バッグを開いた瞬間に見える場所に、嫌でも目に付くようにガムテープで貼った。
意識しなくても、勝手に気を付けられるようにする。
案の定、不評。
「せっかくかっこいいバックなのに、カッコ悪くなっているじゃないですか。」
それでも
「だったら忘れ物するな。」と一蹴。
この時ばかりは、先生という権威を借りた。
次の通塾。忘れ物しなかった。
「お?忘れ物してないね。」
「当たり前じゃないですか。ここに貼ってあるんですもん。張り紙取っていいですか。」
「だめ、継続するまでつけなさい。」
そのまた次の通塾。
忘れ物しない。継続している。
「張り紙取っていいですか。」
「まだだめ。」
「もう忘れ物しないですよ。」
「信用ならん。」
そんなやりとりをしながら、一か月くらい続いた。
忘れ物はしなかった。
ある時、「もうとっていいよ。」と伝えた。
「ほんとですか。」
「もう忘れ物しないよね。」
「大丈夫です。やっと張り紙取れるー!」
時々忘れ物してしまうけど、格段に減った。
そのたびに、「バックに貼るか。」とつぶやくと。
「気を付けます!やめてください!」という。
意識も変わったみたい。
言葉で気をつけなさいというのは簡単だけど、気を付ける努力より、忘れにくい仕組みの方が役に立つこともあるらしい。
