教室の住人たち|令和の野生児
小学校の夏休み前。
長期休暇に入るため、子どもたちは学校に置いてある「あらゆるもの」を持って帰ります。
鍵盤ハーモニカ、習字セット、絵の具バッグ。
学校帰りにそのまま塾へ来る子は、もう大荷物。
その日も、体が見えなくなるほどの荷物を抱えた小学生がやってきました。 ――荷物のなかに、「虫かご」がありました。
私も小学生の頃に、虫かごを持って学校へ行っていたなと懐かしくなりました。 何の虫がいるのだろうか、カブトムシかな、クワガタかな。
興味を惹かれて、私は近づき、彼に質問しました。
「なにか入ってるの?」
「学校で捕まえました。」
なんだか会話のテンポが独特です。
虫かごには大きな葉っぱがあり、それが邪魔で遠目からは何の生き物がいるか見えない。
学校で捕まえたとか言ってたから、カミキリムシとかかな。バッタかな。
そんなことを考えながら虫かごに顔を近づけ、中身を覗き込んだその瞬間。
中にいたのは、綺麗なとぐろを巻いた「ヘビ」でした。
「――ッ!!?」
声にならない悲鳴をあげて、後ろへ飛び跳ねる私。
一方、その様子を「なんでそんなに驚いてるの?」と言わんばかりの顔で見つめる彼。
驚く大人を面白がって、にやにやしている。
「……ヘビ、だよね!?」
「はい」
「捕まえたって言ったよね?」
「学校の休み時間に捕まえました」
「何で捕まえたの?虫網?」
「素手」
……え?素手?
「毒は!? 毒ないの!?」
「図書館で調べたらアオダイショウだったんで。毒、ないんですよ」
「学校の先生はなんて言ってたの?」
「危ないからもうやめなさい、って」
そりゃそうだ。至極真っ当なアドバイスです。 でも彼は、どこ吹く風。 「なんで先生たちはそんなに騒ぐんだろう?」と言わんばかりの顔をしています。
興味のあることは、調べるのも苦ではないのねと、感心しかけましたが……
……いや、待てよ。
「調べたら毒はない」って言ったよな。
私のなかで、何かが引っかかりました。
捕まえる前なら、調べている間にふつうヘビは逃げるはず。
「ねえ、手で捕まえる“前”に調べたの?」
「捕まえた“後”に、図書館で調べました」
「だから危ないって言ってるんだよ!」
思わずツッコむと、彼は嬉しそうにニヤニヤし始めました。
昔懐かしい虫捕り少年は、令和になってもちゃんといた。
ただ、想像していたより、ずっと野生だった。
