【アレで伝わる】
【アレで伝わる】
三題噺:湿ったコンクリート / 10%の確率 / 忘れていた名前
「いいから。ここは俺に任せとけッ。彼女さん、待ってるはずだぞッ」
「いや、でもまだアレ、やってないから」
「だからソレを俺がやっといてやるっつってんだ。任せろ。アレだろ?そんな事より急げ。彼女とこのまま別れたら、一生後悔するぞ!!」
「……そ、そうだな、ありがとう。行くよ!」
「おう!」
「馬鹿……。最近、あなたの声を忘れそうな自分に気付いて、もうダメなのかと思ってた…………。でも、ありがとう。もう、離さないでね……」
「僕がバカだった。でももう間違えない、二度と、離さない!」
「嬉しい……。でもさ、大丈夫なの?立ち上げたばっかりの土木会社の初仕事で忙しかったんじゃなかったの?」
「ん……。雨の確率10%とはいえ、アレを……えっと、アレを。そそそ、アレだ。『雨養生』、そう、それだ。その『雨養生』ってのをしなきゃ。雨が降った時は、コレやらないとコンクリートが乾かないからマズい。下手したら初仕事で信用失う」
「え?!だ、大丈夫なの?」
「親友が『俺に任せろ』って言ってくれたんだ。大丈夫だろ。雨予報が出てて雨養生しないやつなんていないからな。あ、そうだ。もう田舎に帰らないんだから、明日ふたりで俺の初仕事の、現場を見に行こう!」
「うん!見たい、見たい!」
翌日。彼女と俺の前には。
雨に叩かれ、無残に波打つコンクリート。
その前には親友の筆跡で『立ち入り禁止』と書かれた看板だけが誇らしげに立っていた。
