雨を待つ
三題噺:古いスマホ/雨のバス停/忘れられた約束:青春/ラブストーリー(or ミステリー)
「今ね、データサルベージってのがちょっと流行ってるんだって」
「なぁにぃ?それ」
「要は、古い電子機器の中に残っているデータを取り出す、みたいなやつなんだって。おもしろそうじゃない?」
「へぇ、そんなのが流行ってるの?最近はすごいのねぇ」
「ねね、お母さん。お父さんの、なにか無いかな?」
「えー?さすがに向こうにいるお父さんも、怒るんじゃないかな?」
あたしは壁に飾られた写真の中の夫をチラリと見て、答える。
「ん~……。でも!気にならない?」
娘はすごく悪い顔で笑いながら私を見る。
小悪魔め。一体全体誰に似たのかしら。とはいえ。
「……なるわね」
「あはは。じゃ、決まりじゃんwあたし、お父さんの部屋からなんか探ってくるー!」
そうと決まれば話は早い。娘はたたたーっと夫の書斎へ駆けていく。しばらくしたらびっくりするくらいなんか色々持ってきた。デジカメ、ガラケー、スマホ、懐かしい、折りたたみケータイ、ポケベル?なんてのまで持ってきた。
「ね、ね、ママ。パパってどんな感じの人だったの?」
「ん?ふふ。えっとねー、奥手な人よ」
「奥手?んーそっか」
「あの、傘、僕の隣で良かったら入りますか?がパパの初めての会話よ」
「えー?なにそれ」
「雨の日にね、バスが来るまでバス停で待ってたんだけど。だんだん強くなる雨に困ってたら、声をかけてきたの。助かったわ、くらいの気持ちだったんだけど、たまにそのバス停で一緒になることが増えてきてね。そこで仲良くなって、って感じだったわ」
「へぇ。雨に感謝だ!雨降らないと、私、生まれてないもんw」
「ふふ。そうね」
そんなことより、とか言いながら娘は夫の思い出を探り始める。電源を入れても映らないから、充電から始めなきゃならなくて、思ったより大変。そしてしばらくして、ひとつひとつ、古い思い出の扉を開けて行く。
懐かしい。こんな時期もあった、こんなところ行ったわ。なんて娘と言葉を交わしながら、思い出に耽る。
「ママ、見て、これ……」
その中からひとつの古いガラケーを取り出した娘が『画像ファイル』のフォルダを見ながら、少し目を潤ませている。
そこには、私の姿がたくさんあった。
バス停で、立っている私。晴れの日も、曇りの日も、色んな私がバス停に立ってる。
「……ねえ、ママ……」
娘の言葉に、さすがの私も理解する。
偶然なんかじゃなかった。
奥手なあの人は、きっと雨を待ってた。
震える。じわり、じわり。……ポロポロポロ。
娘とふたりして、抱き合いながら涙を流す。
ガチャリ。トビラが開く。
「ただいま~。いやー、単身赴任は疲れますよ、と。ん?どした?今日帰ってくるのはこないだ、言っといたよな?」
