うちのコーヒー
三題噺:世界一高いコーヒー豆 / 錆びついた手錠 / 雨の日のサンダル:不条理コメディ
「え……?なんて?」
「だから、わざわざ買わなくても良くない?って言ったわ」
何気ない雑談から、コーヒーについての話題になった。苦味がいいとか、酸味がいいとか。
ボクは正直、まだコーヒーを美味しいと思えるほどの愛飲家ではない。みんなの話を聞いていると様々で、とても面白い。そんな中、また彼女が彼女なりのルールがあるらしく、口を開く。
「どうせ飲むのなら、良いものを飲みたいわよね?ココは誰でも同じ、異論の余地なんてないわ。そこで。どうせなら毎日楽しみたいわよね?ココもみんな同じだと思うわ。しかし街のコーヒー豆屋さんに行ったとして、売り切れだったら?もう破綻するわね、これはいただけないわ」
「……まぁ、そうだね」
「それは、うん、わかるわ」
「よね?だから私はまず猫を飼ったの。雨の日にペットショップに行った。ちっちゃいベンガル猫よ。18万円したけど、お年玉を貯めていたからどうにかなったわ。家にあるサンダルに似てたから名前も『サンダル』よ。でもすぐ逃げようとするから、ちっちゃい手錠とGPSを買ったわ。ソレをサンダルの首輪の金具につなげて付けるの。コレで必要な時にすぐ見つけられるわ。みんなもGPS付けたら?便利よ、とっても」
「ま、待て待て待て」
「ん?え?私たち今、コーヒーの話してたよね?」
メガネのフチをくいっと上げながら彼女は続ける。
「当たり前じゃない。コーヒーの話なんだから、うちの場合は当然、サンダルの話になるわ。象なんて飼える訳ないし。買えるわけも無いし。あら?今あたし上手いこと言ったわ。うふふ。そりゃ本来なら象よ?それはあたしもわかってるけど現実的な事を考えたら象は無理なんだから、そうなればサンダルよ。結構育ったから、手錠も錆びてきたから新しいのを買わなきゃだわ、みんなのおかげで思い出せた。ありがとう、感謝するわ」
「いやいやいや、謎が深まってんぞ?!」
「ホントなら象、ってどゆこと?!」
えー?なんでわかんないかな?とでも言いたげな感じで。メガネ姿でとことん真面目。まったく融通が効かないその性格から、みんなからは『ロッテンマイヤーさん』と呼ばれている彼女は続けた。
「最初に言ったじゃない。どうせ飲むのなら良いコーヒー、つまり高級なコーヒーが飲みたい訳よね?『世界一高いコーヒー』なんだけど。コレは少し前まではジャコウネコだったんだけど、今は象よ。どちらもコーヒーチェリーを食べさせて、胃袋以降の消化器官を経て体外に出たものを回収、洗浄してコーヒーにするの。……うちのは、なんか不味いけど」
それを聞き、呆然とみんなが見ている前で。あ、そうだ!なんて言いながらカバンからサッとノートパソコンを取り出して、カタカタカタ、タンッと軽やかにキーボードを叩く。
「やはり象よね。今、クラウドファンディングに登録したわ。みんなで象を共同で買うわよ、そして飼うわよ。あら?今あたしまた上手いこと言ったわ。うふふ」
