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憧れのスローライフ

三題噺:火打石/海/スローライフ

「はぁ……やっぱスローライフはいいな。たまんねぇぜ」

なかなか点かない焚き火の薪に火打石をカチカチとやりながらつぶやく。今日の海の波はとても穏やかで、ちゃぷちゃぷといった波の音もとても耳障りもよく気持ちがいい。

「……海キャンプは上級者がやるものよ?」
「いーじゃんいーじゃん。自然の中、苦労しながらもこうやって火打石とかで、火を……火を……」
「そもそもあなた、みんなからせっつかれて『早く焚き火を点けろ』って言われたからやってるじゃない……」
「まぁね。んでもいーだろ。スローライフって感じが。たまんねぇよ、やっぱり。かぁー、来てよかった」
「……私も最近、スローライフを意識するようにしているのだけれど。……あなた、間違えてるわよ?」
「え?」
「間違えてるの、スローライフの認識を」
「スローライフの、認識?」

キョトンとなる俺に向かって、彼女はメガネのフチを軽くクイッと上げながら続けた。

「そもそも、スローライフとは。『外的な要因に左右されることなく、自分のペースで行動を取ること』なのよ。つまり今のあなたは『皆から早く火を点けろ』と言われてやってるわね?あなたのペースでやってないじゃない。自然の中とか都会の中とか関係ないの。自分のペースでやること。他者の都合に振り回されないこと。これこそが私の思うスローライフだわ」
「お、おう……そ、そうなの?」
「そうよ。見なさい、これ。私のスケジュール予定よ」

彼女はスマホのスケジュール管理アプリを素早く開いた。……めっちゃびっしり書いてあるんだけど?!

「コレが私のスケジュールだけど。分刻みに書いてあるわ。でもね、人から言われてやらなきゃいけない内容のものはひとつも無いの。全部、私が私の判断で私のペースでスケジュールが進むの。そう、これよ!これこそがスローライフよ?みんなも、こうあるべきだわ」
「そ、そうか……」

海の上、浮き輪でのんびりブカブカ揺られて笑いあっているクラスメイトを見ながら。
メガネでとにかくマジメで融通が全く効かない性格から付いたあだ名が『ロッテンマイヤーさん』の横で。
分刻みで進めなきゃいけないなんて、スローライフも大変だな……と、俺は大きなため息をついた。

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