隣の女 シロクマ文芸部
お題 来年は
「来年は6度目の年女です。つまり72歳になります」
最近越してきた隣の奥さんは私の年齢が気になるようで、何度も鎌をかけてくるのでそう答えた。
「なんだ、もっとお若いのかと思っていました。私もです」
お隣さんはホッとしたようにそう言って笑顔を見せた。
彼女は少しだけ本音を言わなかった。私は誰が見ても80代にしか見えないのだ。それは彼女の優しさだと受け取ることにした。
お隣とは同じ世代なので話は尽きない。女同士の会話は弾む。
久しぶりに新しい友人ができた。お茶したり、散策も気軽に誘ったり誘われたり。楽しかった。
ある日、お隣は突然引っ越ししたのだ。
驚いて作業中の業者の方に尋ねたが、家の人は居ないというだけ。
信じられなかった。暫く呆然と立ちすくんだ。
私は帰って夫に報告した。
「お前には一言も無かったのか?仲良くしてたじゃないか」
「そうなんだけど……、信じられない」
「もしかしたら、彼女スパイだったのかもな」
「まさか、普通のおばあちゃんよ」
「もしかしたら諜報部員で年寄りに化けていたかもな」
スパイ映画の好きな夫は勝手なことを言う。
夫には言えないが、思い当たることがあった。
私は若い頃、特別な仕事をしていた。もう随分昔のことだ。
もし、彼女が私とは別サイドの人だったとしたら思い当たる女がいる。
そうか、私に彼女は会いに来たのだ。私は最後まで彼女の正体を見抜けなかった。私は彼女の挑戦に負けたのだ。でも楽しかった。ありがとう。
今度は私が挑戦するわ、待ってなさい!コードネーム『ローズマリー』!
了 636文字
小牧部長、皆様
今年も一年、楽しませて頂きありがとうございます。
来年もよろしくお願いいたします。
☆私の年齢以外はフィクションです。え?わかってました?
