眠れない シロクマ文芸部
眠れないのは私だけではなかった。
飼い猫のジャジャもさっきからアクビを繰り返している。
「こんな夜は何かが始まるかも」
何気なく声に出して言った。
「そうね、何か始まりますよ」
誰かが返事をした。
ここには、私とジャジャしかいない。という事は…
「そうですよ。私ですよ。奈々」
私はいつかはこんな日が来るような気がしていた。にも関わらず私は酷く驚いた。ジャジャは黒い尻尾を丸めたり伸ばしたりして遊び始めた。この状況を楽しむつもりのようだ。
「ねえ、ジャジャ。あなたいつから喋れるの」
「子猫の頃からですよ。猫は殆どみんな喋れるのです。賢いからそんなそぶりは決して見せませんけれど、私はアンポンタン猫なのでね」
そう言って笑う。猫の笑い方って…変な感じ。
「私達、これからどうなるの?」
「どうにもなりませんよ。いつもと変わりないです」
ジャジャの澄まし顔は逆に私を不安にさせる。
「奈々、もう寝ましょう。明日に響きますよ」
この、ジャジャの声、どこかで聞いた。私は亡き母を思った。
「ねえ、ジャジャ、あなた、私のお母さんじゃないの?」
振り返りながら私はジャジャに尋ねたが、ジャジャは既に小さくイビキをかいていた。
私は夢を見ている最中なのかもしれない。
私はジャジャを撫でながらお休みの挨拶をした。
「お母さん、ジャジャ、おやすみなさい」
すると返事をするように、ジャジャが小さく鳴いた。母の声も聞こえた気がした。
「奈々、おやすみなさい」と。
昨日と同じように今日の夜も更けていく。今日と明日の間に得体の知れない世界があるような気がする。魔法のような空間。そんな話、聞いた事がある。
ふと気がつくとじゃジャがいない。いつの間に外に行ったのだろう。もしかしてジャジャなど最初からいなかった気もする。
もしかして、私自身が本当はジャジャではないのかとふと思う。なんだか妙な納得感が暗闇に広がっていくのを私は感じていた。
了 783文字
小牧幸助部長の今週のお題、『眠れない』から始まる話を書かせて頂きました。よろしくお願いいたします。
