【ニホンザル】 メス頭に求められるもの
こんにちは、kiyoです。
ひとつ前の記事で、地獄谷野猿公苑のメス頭(メスの中の序列1位)が交代した話を書きました。
それまで13年にわたり地獄谷の群れのメス頭に君臨したトックリ00というサルから他のサルに入れ替わったそうです。
このトックリ00というメスは、私がかつて密着し追い続けたメスです。
私が地獄谷野猿公苑での観察活動を終了してから既に6年が経過していますので、最近のトックリ00の動向はサル友から聞いたり、SNSで見たりする程度しか知らないのですが、26歳という、野生ニホンザルとしては高齢の部類になり、まぁ、自然な交代であろうと感じます。
トックリ00は温泉好きなので、今後は温泉婆さんとして安泰な隠居生活を送って欲しいと思いますが、おそらくは残念ながら、なかなかそうはいかないと思います。
野猿公苑が「メス頭が交代した」と認定し公表するのは、あくまで群れの社会構造における形式上の交代を指しています。
『トックリ00と、彼女と入れ替わったメスの、1対1の力関係が明らかに逆転したと思われる』
という事実だけを見て認定しています。
それは確かにそのとおりです。
しかし私は、数多くの野生ニホンザルの群れを観察してきて、ニホンザルの群れの在り様はそんな1対1の力関係だけで成り立つような単純なものではないことを知っています。
地獄谷の群れは200頭を軽く超える大規模な群れです。
その群れの大半はメスと子ザルです。
オスは全体の1割にも満たない数しかいません(オスは6歳くらいまでにほとんどが群れから出ていくため)。
このメスたちが精神的に頼るのがメス頭です。
オスは粗暴で、なにかにつけメスを攻撃します。
オスからの攻撃を恐れ、ほとんどのメスは強いメス頭を頼るわけです。
トックリ00は13年間にわたり、この群れのメス頭に君臨してきました。
この在籍年数はおそらく地獄谷野猿公苑史上最長です。
そしてこの13年間、群れのメスを守り、群れのメスたちとの信頼関係を築き上げてきたのです。
この13年間築き上げてきた信頼関係はそう簡単に崩壊するようなものではないのです。
下のふたつの動画を見て下さい。
この上の動画は、自分の力を見せつけるために理不尽に他のメスザルを攻撃するオスに対し、トックリ00が自ら対峙して闘うことで他の弱いメスザルが攻撃されることから守っているシーンです。
このふたつめの動画は、オスからの攻撃で激しく出血しながらも、幼い我が子を必死に守る若いメスザルを守ろうと、現場に駆けつけ、狙われているメスの前に立ちふさがり、そのメスをオスから守るトックリ00の姿です。
このとき、この攻撃されている若いメスは、トックリ00が駆けつけてきてくれてどれだけ心強かったことでしょう。
トックリ00は13年間こうやって、群れの弱いメスたちを自ら体を張って守ってきて、強い信頼関係を築き上げてきたのです。
若いメスがオスのバックアップを受けて、1対1の力関係で高齢になったトックリ00より優位になったとしても、この13年間の信頼関係は簡単には壊れないということなのです。
新しくメス頭になった若いメスが、このトックリ00のような行動を取れるかどうか、他のメスたちの信頼を得るためには、こういうことが求められるのです。
今後新しくメス頭になったメスは餌場の中心に居座るでしょう。
トックリ00はその場を譲ることになり、それを群れのメスたちは見て、優位関係が逆転したことを認知します。
しかし、強いオスのバックアップを受けて、餌場の中心にいるだけでは、群れのメスたちの信頼を得ることは出来ません。
群れのメスたちの信頼をもっとも得ているメスこそが真のメス頭なのです。
群れ社会の構造的な形式上のメス頭は、あくまで相互の1対1の関係性で決まりますし、野猿公苑の職員はその相互関係だけでメス頭の交代を認定しますが、群れのメスたちが頼る精神的な支えとしてのメス頭はまた別なのです。
冒頭に、『トックリ00は温泉好きなので、今後は温泉婆さんとして安泰な隠居生活を送って欲しいと思いますが、おそらくは残念ながら、なかなかそうはいかないと思います』と書いたのは、信頼され続ける以上はトックリ00はその信頼に応えようとするだろうと思うからです。
しかしトックリ00自身かなりの高齢になってきています。
もう無理はしないで欲しいですね。
おそらく今後彼女自身の求心力は徐々に落ちていくでしょうが、新しいメス頭が今までのトックリ00と同じような行動を取れなければ群れのメスたちの信頼を得ることは出来ず、短期間で次々にメスが入れ替わるような不安定な状態になっていくと思われます。
数年後、おそらくトックリ00はもう亡くなったあとになるでしょうが、彼女の末の方の娘か孫が若いオスたちとの関係を構築しながら、メス頭になっていくでしょう。
群れのメスたちの信頼を得ることが出来るのは、やはり母から引き継がれた娘か孫になるだろう、と。
他の群れの歴史などもそれを証明しているのです。
* ヘッダー画像、及び本文中の画像、動画は、注釈が無い限りは私本人の撮影 によるものです。|
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