見出し画像

カツ丼で生き抜こう!

 この所、一週間に二度ほどの割合でカツ丼を食べている。
もとより、スーパーやコンビニで買ったやつだ。
 自炊した方が俄然美味いのだが、この暑さ、間違っても厨房に立つ気にはなれない。
確かに、自分で作れば……まあ、豚カツだけは市販だとしても、味付けやタレの分量などは好みでカスタム出来るのだが……それもままならない。

 いずれにしても、毎日、朝から晩まで氷水(お茶)をがぶ飲みしているので……やはり食欲は落ち気味なのだが、なぜかカツ丼だけばガツガツ食べることが出来る。
 取り合えずカロリーも高いことだし、この夏を乗り切るにはうってつけだろう。

 そうは言っても、やはり出来合いのカツ丼が不満であることは間違いない。

 ついこないだ、スーパーの奴など……食べながらも、不満の言いっ放しであった。
豚カツ自体は値段の割に分厚くで食べごたえはあるのだが、卵が少なく、味付けも薄くて、タレの量も少ない。

 確かに、僕にはカツ丼とはこんなものだ! ……という確たるイメージがあるのだが……はて、いったい何処でこの味を覚えたのだろう?

 思えば「カツ丼」などは家庭の味、……まあお袋の味の定番なのかも知れないが、僕としては手作りのカツ丼を食べた記憶がない。
 実際の所、父親代わりに働いてもいて、滅多に厨房には立たなかったようだ。
加えて、根っからの肉嫌い……牛、豚、鶏……いっさい受付ないのだから、肉料理に腕が振るえる道理もない。
 ただし、ふと思い出すお袋の味は、ホワイトシチューである。
 もとより、ベーコンを含め、肉と名のつくものはいっさい入っていない。ジャガイモ、人参、タマネギ、ブロッコリーの類いだけ。
 ただ、一つ覚えているのが、ビックリするほどのバターを使い、じっくりと小麦粉を炒めていたはず。

 いけない。話が外れてしまった。

 ホワイトシチューでは、どう考えてもカツ丼とは結びつかない。

 いや、もう一つ……忘れてはいけない、お袋の味があるのだ。

 とたんに、お袋の幽霊が目の前に現れて言うことに、

「カート。お袋の味について、書いてるのね」
「まあ、今……ホワイトシチューについて考えてた」
「他にも、色々作ってあげたじゃない」
「そう、だっけ?」
「やーだ。ハンバーグなんか、好きだったでしょ。カートがタマネギが苦手だって言うんで、わざわざすり下ろしたりしてさ……」
「そうだった。思い出した」
「呆れた」
「確かに、チキンライスとか、……そうそう都鳥は好きだったな。てゆーか、お袋、肉が苦手だったんで……ちょっと意識から外れてたかも……」
「オムレツだって、メンチカツだって……」
「ちょっと待って。あのさ、お袋……カツ丼って作ったことあったかな?」
「……そう言えば、あまり作らなかったかも。なんか……カツ丼って言うと、店屋物ってイメージだったかも知れない……」
「やはり、お袋の味の止めは……あれかな?」
「何?」
「おかかの煮付……てか、佃煮というか……」
「もう、そんなコト書かないでよ。あれは、お金のない時の苦肉のサクで……」

 なにせ、少女期まではお嬢様暮らしのお袋のこと、しみったれたコトは聞きたくないのだろう、あっさりと目の前から掻き消えた。

 しかし、書かずにはいられない。

 そう。このへんの事情は以前にも何度か触れたと思うのだが、僕が世界の終わりを目前にして最後に食べたいと思うのは……断じて鰻ではなく……お袋が貧乏のどん底の時に作ってくれた、「おかかの煮付」なのだ。

 いわゆる、「佃煮」的なものではなく……出汁を取るような鰹節を、醤油と砂糖で煮付けただけの単純なものだ。たぶんお酒くらいは入れていたと思うが、他にゴマとかはいっさい加えていない。
 味付けはかなり甘い。完全に子供向きである。

 僕はこのおかかの煮付を、後年再現しようと試みたことがあったが……どうしても再現出来なかったのだ。

 理由は判っている。粗末な素材ながらも、お袋はなんとか僕に美味しいもを作りたかったのだろう。
 そう。お袋が味の素の代わりに加えた調味料は、「愛」だったはず。

 これで合点がいった。僕の味の原点は、この単純な料理の、醤油と砂糖の甘辛系なのだろう。

 さっそく「カツ丼」に応用したいのだが、惜しむらく……スーパーには、「愛」とい調味料は売っていないのだ。

いいなと思ったら応援しよう!

銀騎士カート 貧乏人です。創作費用に充てたいので……よろしくお願いいたします。