【ミラージュ】
不確かな街路をガス灯に沿って歩く
ガスに酸化された外壁を思い出させる
何だっけな。もう、どうでも良いや
私はガスに包まれたこの街が好きだ
ガスが霧みたいになって、灯りがぼやけるのが特に好き
でも私たちの身体には毒みたい
淫らに着飾ったこの街の風景が、ただ私を見つめる
腐敗した配管はどこへ行ったのだろう
レンガの溝を『あみだくじ』に見立てて、今日も徘徊する
地下鉄には、物乞い達がチラホラ
地上にはもう、彼らを抱擁する者は居ない
物好きが玩具として遊ぶだけ
自業自得の輪廻を外れた運命でさえも、彼らの肩を濡らす
この街の霧がかったガスは彼らによる
この世界への呪いなのかもしれない
でも、そんな事はどうでも良い
私は私の人生を歩むだけ
雨が降ったのなら、傘を差すだけ
私はただの物好きな徘徊人
目的地は特に無い。それが私にとっての自由という物への啓示でもあった
地下鉄のホームはいつも、本来の成分と組み換えた笑気ガスが充満している
笑う事でしか生を実感できなくなった者たちの歓喜した声が、地下を反響で征服する
そんなガスはいつしか、街を飲み込むほど溢れかえった
脱法ガスを
なぜ、彼らは吸引するのか
なぜ、誰も止めないのか
なぜ、街としての機能が停止しないのか
何度か疑問に思ったが、どうでも良くなっていた
私はガスに包まれたこの街が好きだ
ガスが霧みたいになって、灯りがぼやけるのが特に好き
『この街の霧がかったガスは彼らによる
この世界への呪いなのかもしれない』
だけど、そんな事は知らない
ガスが集まって雨となり、私の肩に降って来ても傘を差せば良い
この霧状のガスは私を包み込んでくれる
私の心を包み隠してくれる
学校で教わった綺麗事(道徳)をあやふやにしてくれる
この霧状のガスは、無闇に他人と関わらせないようにしてくれる
私はただ徘徊して、今日も心の中に都市を刻み込んでいく (完)
