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輝宗が初陣で政宗に見せたのは、勝ち方より「退けない理由」だった

初陣で父が息子に見せるものは、勇ましい勝ち方だと思っていました。

けれど、政宗の初陣を追うと、それだけでは足りません。

輝宗が見ていたのは、敵をどう倒すかだけではなく、なぜ伊達も相馬も、この境目から簡単には退けないのかだったと思います。

政宗の初陣は、亘理への援軍から始まった

1581年、相馬義胤が、伊達と関係の深い亘理氏を攻めました。

これを受けて、輝宗は亘理への援軍として動きます。

米沢から伊具郡の角田へ向かう父の傍らには、14歳の政宗がいました。

政宗の初陣です。

その後、父子は相馬方の小斎城に近い矢ノ目へ布陣したとされています。

ここで最初に政宗が見たのは、自分の武勇を試すために用意された敵ではありませんでした。

攻められた亘理。

援軍へ向かう伊達。

小斎を守る相馬方。

どちらへつくかを決めなければならない境目の城主。

それぞれに、動く理由と退けない理由がありました。

輝宗は、前だけを見てはいなかった

初陣という言葉には、どうしても前へ出る姿が似合います。

若武者が馬を進め、敵を恐れず、父の前で力を示す。

分かりやすい始まりです。

けれど、一軍を率いる者が前だけを見れば、その軍勢は帰れなくなります。

どの道から兵が来るのか。

兵糧はどこを通るのか。

押し込んだあと、どこまで追うのか。

城が動いた時、その内側にいる者を本当に信用できるのか。

輝宗にとって、伊具郡の戦は初めてではありません。

政宗が生まれる前から続き、自ら何度も兵を出してきた境目でした。

だからこそ父は、進めば勝てる場面ほど、その先を見ていたのではないでしょうか。

小斎城が動いても、戦場は単純にならない

この戦では、小斎城主の佐藤為信が伊達方へ転じ、小斎城が落ちたとされています。

城主が味方になった。

城が落ちた。

言葉だけを並べれば、伊達側の勝利です。

しかし、境目の城では、旗が変わった瞬間に人の心まで同じ側へ揃うわけではありません。

昨日まで相馬方として戦っていた兵がいる。

伊達を警戒する者がいる。

新しい主に従わなければならない領民がいる。

相馬方には、退けば失う城と面目がある。

伊達方にも、城へ入りさえすれば終わると思えない理由があります。

勝ちが見えた時ほど、前へ群がらない。

開いた門ほど、何が待っているかを見る。

それもまた、輝宗が政宗に見せた戦だったのだと思います。

敵にも、退けない場所がある

伊達から見れば、相馬は押し返すべき相手です。

けれど、相馬にも家臣がいます。

領地があります。

一度支配した土地を手放せば、周囲の国衆から「相馬は退いた」と見られます。

戦国では、退くことにも値段がつきます。

敵が退かないのは、勇気があるからだけではありません。

退いたあとに、もっと大きなものを失うからです。

その事情を知らずに敵を攻めれば、相手の動きを読み違えます。

敵を弱く見れば、押しすぎる。

敵を悪く見るだけなら、なぜ戦が終わらないのか分からない。

輝宗が初陣の政宗に見せたのは、相馬を憎む方法ではなかったはずです。

敵にも退けない理由があると知ったうえで、それでも伊達として前へ出ることでした。

勝ち方より先に、戦の終わらなさを知る

政宗の初陣は、鮮やかな勝利だけでは終わりません。

小斎城が動いても、相馬との争いそのものは続きました。

丸森、金山、小斎をめぐる戦が決着へ向かうのは、さらに後です。

初陣で一つの城が動いても、父の戦は終わらない。

それを見た政宗は、戦とは敵を倒せば終わるものではないと、早くから知ったのではないでしょうか。

もちろん、輝宗が戦場で政宗に何と語ったか、その言葉が残っているわけではありません。

だから私は、父の言葉ではなく、父が見ていたものから読みたいと思います。

敵。

城。

味方。

道。

そして、双方が退いたあとに失うもの。

輝宗が政宗に見せたのは、勝つ者の背中だけではありません。

簡単には終われない戦の中で、それでも引き受けて決める当主の背中でした。

* * *

輝宗の戦場を見る目で、最も残ったものはどれでしょう。

退路/城/面目

一つだけで十分です。理由は要りません。

同じ初陣を、今度は家臣たちの側から読むなら、23投稿目
「政宗の初陣は、家臣たちが若君を測る日でもあった」 へ。

輝宗と政宗の父子関係を続けて読むなら、24投稿目
「父を敬うことと、父を超えたいことは、同じ胸にある」へ。

次は、戦場で家臣たちが若い政宗の何を見ていたのかを読みます。

このnoteでは、完成した独眼竜ではなく、父・母・家臣・妻・敵・土地の中で、伊達の棟梁へ近づいていく若い政宗を追っています。

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