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食堂aca 2026.05


はじめに

薪や炭の香り、塩の輪郭、素材そのものが持つエキス。
「食堂aca」は、スペイン料理をベースにしながら、“火入れ”と“旨味の運ばれ方”によって料理を構築していく一軒です。

お店のコンセプト

当店は、日本橋の名店「aca」から派生した新業態。
オーナーシェフ・東鉄雄氏の思想を受け継ぎつつ、“食堂”という言葉通り、より自由で伸びやかなスペイン料理を展開しています。

シェフを務めるのは、1997年大阪府生まれの若き料理人、幸塚氏。
「スリオラ」、「アロセリア ラ パンサ」を経て「aca」へ入社。2024年の開業時より、「食堂aca」の料理を担っています。

実際にコースを通して感じるのは、“複雑なことをシンプルに見せる”感覚。
例えば、炭焼きの香ばしさ。
あるいは、シェリービネガーの酸。
パプリカのスパイス感や、魚介のミネラル。

それらが単体で強く押し出されるのではなく、互いの香りや旨味を立体的に交錯させながら、一つの流れとして組み上げられています。

お食事内容

当店では、おまかせコース(16,500円、税込)のみのご提供となります。

スナップエンドウ、アホブランコ

炭焼きにしたスナップエンドウに、アホブランコを合わせて。

アホブランコは、ぽてっとした口当たりを持ちながら、口の中ではふっと舞うように溶けていく。
アーモンド由来の燻したような香ばしさと、ニンニク由来のふくよかな旨味が絡み合うことで、柔らかな奥ゆかしさを形成。
さらに、アーモンドの燻香と、スナップエンドウの炭焼きによる香ばしさが共鳴していきます。
そこへ、スナップエンドウのシャキシャキと溌剌な瑞々しさによって、食感と味わいの双方に彩りとアクセントを与える。

以前、当店でアホブランコを蕪と合わせて頂いた際は、より乳白的で静かな印象でしたが、
今回はスナップエンドウの青い香りによって、アーモンドの燻香がより前へ立ち上がっていたのが印象的でした。

金目鯛

金目鯛は炭で軽く火を入れ、中はレアに。
淡路島の新玉ねぎを、シェリービネガーでマリネしたものと合わせます。

金目鯛は口に入れた途端に、とろっと口全体を覆う脂。そこへ繊維の靭やかな流れが重なり、金目鯛特有の厚みを感じさせます。
一方で、皮目の焦げはザクザクと鮮やかに刻まれるように入り、味わいへ輪郭を与えてくれます。

マリネは、きゅんと愛らしい酸を軸に、新玉ねぎ由来の朗らかな甘みと瑞々しさ。
金目鯛の脂を、軽やかに持ち上げていました。

ボカディージョ

当店の定番の一つである、ボカディージョ。
今回は、帆立のカツとタルタルソースでした。

帆立は半レアに仕上げることで、まったりとした甘みがゆっくりと広がる。
タルタルソースには、ディルとセロリをたっぷり。
最初はディルの清涼感が立ち上がり、咀嚼を進めるにつれ、セロリの食感と香りが入り込むことで、最後まで非常に清々しい印象を形成していました。

以前頂いた牡蠣フライ版のボカディージョでは、タルタルソースへニンニクやパプリカパウダーによる力強さが前面に出ていましたが、今回はよりハーブ主体の設計。
パンが間に入ることで、味わいの強度が自然に整えられていました。

子持ちヤリイカ

子持ちヤリイカは炭焼きにし、イカ墨のソースと共に。
子持ちゆえの、とろんと厚みあるコクと、咀嚼によって、ヤリイカ由来のミルキーな旨味がゆっくり膨らみ上がっていきます。

イカ墨のソースには、醤油を加えることで、単なる濃厚さではなく、まろやかなコクと共に、焦がし醤油のような明確な輪郭が与えられていました。

アリタ・デ・ポジョ

アリタ・デ・ポジョは直訳すると、「鶏の羽」。
揚げたての鶏の手羽中の唐揚げに、パプリカ主体のスパイスで和えた一品です。

朗らかなスパイス感はありつつ、今回は以前よりも“旨味”に主軸が置かれている印象。
辛味やスパイスはあくまで支え役であり、じゅんわり滴る鶏のピュアなエキスと、非常に良い均衡を取っていました。

稚鮎、エスカベッシュ

稚鮎はエスカベッシュに。
フリットにした稚鮎に、林檎と新玉ねぎを、シェリービネガーと柑橘主体のマリネで合わせています。

ザックザックと掘り出すような鮮やかな衣に、マリネの食感は小刻みに入り込み、華やかな彩りを形成します。
そこへ、稚鮎特有の沈むようなコクと、ほのかな苦味が交錯していきます。

エスカベッシュのマリネには、シェリービネガーや柑橘だけでなく、蜂蜜やウルメイワシも使用。
そのため、単なる酸味ではなく、まろやかさと“出汁”のようなコクを内包していました。

近江牛イチボ

岡崎牧場、58ヶ月肥育の近江牛。
たおやかな弾力を持ちながら、口当たりはまるで溶けるよう。
しかし同時に、ぷりっとした生命感も感じられる。脂が前へ出るのではなく、“身の旨味の延長線上”として脂が存在している感覚。

まさに、旨味ありき。
旨味を軸に構築された牛肉でした。

ホワイトアスパラガスのメロッソ

メロッソとは、スペインの伝統的な米料理の一つで、「蜂蜜のような」という意味もあります。
水分が多めのスープでお米を炊き上げるために、リゾットとはまた異なる、とろりとした味わいを持ちます。
今回は旬である、ボルドー産ホワイトアスパラガスを使用していました。

ホワイトアスパラガスは、ショキショキとした瑞々しい食感を残しながら、同時に白葱を思わせる、とろんとふくよかで朗らかな甘みを持つ。

米は細やかな粒感を残し、スープにはホワイトアスパラガスの皮なども使用されているため、素材との親和性が非常に高いです。
さらに山羊のチーズが加わることで、全体へミルキーな丸みが生まれ、チーズ由来の旨味が伸びやかに広がっていきます。

毛蟹のパエリア

お米には、「龍の瞳」を使用。
「いのちの壱」という品種の中で、特定の生産・販売基準をクリアしたブランド米になります。

先程のメロッソとは異なり、一粒一粒が非常に大きい品種で、ぷちぷちとした粒立ちと甘みを持っています。
そのため、咀嚼そのものに深みが生まれます。

一口目から、蟹身や蟹味噌による複雑味を感じる一方、咀嚼を進めることで、蟹のミネラルとミルキーな甘みが交錯し始める。
味わいが二段階的に変化していく構成が印象的でした。

ミルクマミア、山羊のミルクアイス

マミアとは、羊ミルクを使用したフレッシュチーズの一種です。
ふわっとしたテクスチャーと、非常にピュアなミルクの甘みは、ミルクパンナコッタを思わせる柔らかさがあります。
対して、山羊のミルクアイスは瑞々しさ主体。
するんと溶け消えていく滑らかさの中に、山羊乳らしい、牧草を思わせる温かな香りです。

そこへ、苦味をしっかり効かせたカラメルが絡み、長い余韻を形成。
さらに、アーモンドスライスがサクサクと不定期に入り込むことで、食感にリズムが生まれていました。

サービス

お食事・ペアリング共に、非常に細やかな量調整をしてくださり、結果として幅広い料理を存分に楽しむことができました。
また、適切なタイミングで自然にお声掛けくださり、一人での訪問でも非常に居心地が良かったです。

フレンドリーで笑いもありながら、随所に細やかな気遣いが感じられる。
“食堂”という名を冠しながらも、ホスピタリティは非常に丁寧でした。

お値段

コース(増量)とペアリングで、計59,140円でした。

最後に

「食堂aca」の料理は、一見するとシンプル。
しかし実際には、炭香、酸、脂、ミネラル、食感それぞれの“立ち上がり方”と“交錯のさせ方”が、極めて緻密に設計されていました。

火を入れることで、素材を強くするのではなく、素材の輪郭や味わいの流れ方を変えることで、旨味を立体化していく。
そんな、現代スペイン料理らしい美意識を強く感じるコースでした。

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