書評『Nの逸脱』町内で巻き起こる不思議な出来事!

📙note087 書評『Nの逸脱』

著者:夏木志朋

Audibleナレーター:しぐれさみだれ、にしやまくる子、板倉ミキ

第173回ナイキ三十五賞候補作。知らない作家だったが、手に入る候補作だったので読んでみたところ、独自の世界観を持つ作品で驚いた。細かい部分まで配慮の行き届いた筆致は、スムーズに心に入ってくる素直な、私好みの文章だった。

架空の街・常緑町を舞台に繰り広げられる短編3作の連作集だ。


「場違いな客」

あらすじ

常緑町にある爬虫類専門のペットショップでアルバイトをしている金本篤は、お気に入りのフトアゴヒゲトカゲに勝手にフトと名付けて川至っていた。ある日フトが“処分”されそうになり、買い取る資金もなく途方に暮れる。街をさまよっていたところ、以前店に来た客を見かける。爬虫類は買わず、UV照明だけを持ち帰った男だった。その照明は、大麻栽培にも用いられることがあると知り、彼を強請って金を得ようと尾行するが——。

雑感

爬虫類やUV照明という、馴染みのない情報が物語の舞台への興味をかき立て、お気に入りの個体が処分されそうになる場面から引き込まれる展開は見事。精緻な文章が心地よく、篤と男のやり取りの緊迫感もスリラーとして秀逸。ラストの映像的な描写は圧巻だった。


「スタンドプレイ」

あらすじ

スクールハラスメントを受けている高校数学教師・西智子は、深夜の満員電車で迷惑行為をやめない茶髪女子に遭遇する。最寄り駅で下車した智子は、苛立ちの限界を超え、目的もなくその女を尾行する——。

雑感

知的障害を持つ両親のもとに育った智子が、クラス女子からいじめを受ける構図に底知れぬ不気味さが漂う。弱者を見つけていじめる心理。私は、加害者自身も他の場面で被害者経験の背景があるのかもしれないと深読みしてしまう。

満員電車の描写や、無自覚にストーカー化していく教師像が生々しく怖い。思考や後悔の描写は実際にありそうで、圧を感じるリアルさがある。


「占い師 B」

あらすじ

占い師・坂東イリスの元へ、未来が見えるという弟子志願の若い女性・秋津が訪れる。姿勢は良いが、やることなすこと失敗ばかり。それでも占い師になりたいと食い下がる秋津に対し、イリスはある方法でデビューさせることに。だがその日の夜、イリスのポストに意外なものが投函されていた——。

雑感

ホットリーディングとコールドリーディングという、詐欺師が用いる情報戦術がある。私は以前、占い師も自覚しているかどうかは別にしてこれを客に施していると聞いたことがある。実に興味深い。秋津は見た目はキャリアウーマン、しかし中身は“バカ”。漫画のような設定が魅力的で、占い師への執着ぶりは狂気すら帯びる。

その日見せる「別の顔」には引き込まれ、著者の筆はさらに予想を超えてくる。ラストでイリスがとる行動は驚きだったが、小心者の私には到底できない決断。感心しきりだった。


●   まとめ

各話で必ず出てくる「相手の住居」を訪問するというシーンで、私はゲーム・バイオハザードの入室効果音を当てながら読んでいた。不穏でありがん柄興味津々怖いもの見たさを高揚させる。

追う者と追われる者が入れ替わり、善と悪が反転していく主客逆転の構図にドキドキさせられた。「占い師 B」で“口裂け女”や“トカゲ”を登場させることで連作としての一体感を感じさせる。自然な流れを持つ筆致が読者を飽きさせず、ラストまで好奇心を途切れさせない。もっと読んでみたいと思わせる作家だ。本作を読んでいる人と考察を語り合いたくなる作品である。

あなたも本作を読んで、私と語り合いませんか。

いいなと思ったら応援しよう!