恋愛掌編小説 『つま先シュート』
「ねぇ、足組んだときさ。つま先って好きな人の方に向くらしいよ」
ファストフード店のベンチシート。隣で、彼女がニヤリと笑う。両足をバタバタさせながら、僕の膝を指先で軽くつついた。
「ほら」
ただ組み直しただけだと言っても、彼女は、ずっと笑っている。
課題のレポートを見せてやったお礼は、ポテトとシェイクね!・・と、なかば強引に連れてこられた店で、彼女はポテトの中から、短くて少し焦げた固そうなやつばかり選び食べている。
「なんか好きなんだよね、これ」
スマホを見ていた彼女が、いきなり「あっ」と大きな声で画面をこちらに向ける。好きなアニメの劇場版が、今度の金曜日から公開らしい。
……知ってるよ。
もうひと月くらい前から、上映する映画館も、時間も、全部調べてる。
「近くの映画館でもやるかな?」
「人気作だし、どこでもやるんじゃない」
わざと、少しだけ興味なさそうに返すと、彼女は眉を寄せ口を尖らせる。
「……友だちと行くの?」
「特に決めてないけど」
そう言いながら、またスマホに目を落とす。
「初日に行きたいけど、今週だとみんなもう予定あるかもなぁ」小さな独り言が、途切れずにこぼれた。
……駅前のシネコンも、街中の映画館も、上映時間だって、もう頭に入ってる。
ずっとチャンスを待ち続けて、今、スルーパスが目の前にある。
…後は蹴るだけなんだけど。
アディショナルタイムは、もうポテト数本とシェイクひと口分しか残ってない。
——
映画館の席は、通路側から二つ。
通路側が僕。
通路に足が出ないよう足を組む。
気づけば、つま先はまた彼女の方を向いている。
でも、彼女はスクリーンに夢中でそれに気付く気配はない。
(了)
パテック様の下記企画に参加させて頂きました。#パテック杯
