掌編小説『ビールは冷えてるうちに』#シロクマ文芸部
「鍋の具は何も無いし、そもそも鍋がないよ」と笑いながら彼女が言う。言われてみればそうだった。冷蔵庫もないこの部屋。鍋でもしようかなんて気軽に言った僕のほうが分かってない。
料理はほとんどしないらしい。「コンビニと、弁当屋と、スーパーの惣菜コーナーがあれば、まぁ生きていけるんだよ」と彼女は言う。
「でも冷蔵庫がないと不便じゃない?」と聞く僕に、「ビールがさ、冷えてるとあるだけ飲んじゃうんだよね。だから、その日の分だけ買って帰るほうが良いんだよ」と、冷蔵庫=ビール、という発想がいかにも彼女らしい。
「じゃあ夕飯はどうする?」
「買い出し行こっか。ついでにビールも」
二人で近くのコンビニへ向かう。
夕飯のつもりだったのに彼女は、ツマミっぽいものやお菓子ばかりカゴに放り込んでいく。
・・・
翌朝、ごみ袋の口を結ぶ彼女。ほぼプラスチックゴミのようだ。大きい袋だけど、すごく軽い。存在を主張するほど十分に大きさはあるけど、重くはない。軽いとは違う。軽やかなんだなと思う。
(了)
※下記シロクマ文芸部様の企画に参加させて頂きました。
