掌編小説 『願いを食べる竜の森』
「何か食べたいものはないの?」
そう聞いてみたけれど、竜はいつものように、逆に私の願いを聞いてくる。小さい頃から、私はずっとお願いばかりしてきた。
春になれば、私は、この森を離れて街に移り住む。その前に、今までのお礼に何か食べたいものを届けたくて、ここに来た。それなのに竜は相変わらず、不器用で一途なままだ。
「本当は、食べたいものあるでしょ?」
「ないよ。それより、何か願いは?」
大きな体に、鋼鉄のような鱗と爪。折りたたまれた翼。そのすべてに、私はずっと守られてきた。でも今あらためて見ると、体はもう私と変わらないくらいの大きさで、鱗も爪もボロボロだ。翼も、折りたたまれたまま、固まってしまったように見える。
「夏と冬には帰ってくるよ」
それで竜が喜ぶのかは分からないけれど、そう言ってみた。
「無理しなくていい。でも、何かあればここに来て、願いを言えばいい」
まだ飛べるはずの翼は、きっとその時のために残しているのだろう。竜自身のために飛んでほしいという私の願いと、私のために飛ぶつもりの竜の願いは、きっと同じにはならない。
それでも――
たまに帰ってくるよ。その時は、「会うという願い」を一緒に食べよう。

(了)
※下記、片桐みかん様の企画に参加させて頂きました。今回、お題①のみの作品です。
#3つのお題に空想のひらめきを
🍊第46回 3つのお題(ファンタジー)
🎈お題①:「願いを食べる竜の森」
🐾お題②:「音のない世界の歌姫」
⏳お題③:「夢を閉じ込めたガラス瓶」
