恋愛掌編小説 『鉄とガラスの絆』
首から肩にかけて、凝りがひどい。
もう自分の体ではないような気がして、触ってみると、鉄になっていた。
肩先は少し角度があって、当たると痛そうだ。
電車で他の乗客にケガをさせてはいけないので、数十年前の肩パットモリモリのスーツで出社した。
会社に着くと、Z世代の若い社員たちが集まってきて、僕の肩パットを触りながら「わ!ふっかふか!」と笑っている。
「トレンディだろ」
と言うと、一瞬で静かになった。
帰りは夕立に降られた。
駅から走って、びしょ濡れのまま玄関のドアを開ける。
飾っていたリングピローは、いつのまにか鍵置きになってしまったけれど、彼女は、あの頃と変わらずやさしい。
「早く拭かないと。酸性雨だから錆びるかも」
文系の彼女が、そんなことを心配している。
僕よりも肩こりのひどい彼女は、もう両方とも鉄の肩になっている。タオルを持って近づいてきた彼女と、肩と肩が当たって、鈍い金属音が鳴った。
その音が可笑しくて、僕らは目が合い笑い合う。
そんな僕たちの瞳は、二人とも眼精疲労で、もうガラス玉みたいになっている。
鉄とガラスは、いつも以上に僕たちの体温を互いに伝えていた。
(了)
※下記、はらとけい様の企画に参加させて頂きました。
#せりふ三題噺
#酸性夕立リングピロー
■セリフ
「わ!ふっかふか!」
■三題
・酸性・夕立・リングピロー
