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コブラとティッシュ配り

 ある時、駅前でポケットティッシュを配ることになった。
 人材派遣会社の採用センターにいた当時で、通常の求人広告だけだと採用が追い付かなかったので、ポケットティッシュの裏面に求人情報を入れて配布するのはどうかと提案したら、やってみろとなったのである。
 誰がどう手配したものかもう判然しないが、それからじきに段ボール数箱のポケットティッシュが届いて、近隣の営業所からスタッフが二人、配布の手伝いに来てくれた。一人はザ・コブラツイスターズのギタリストに感じが似ている。もう一人はどんなだったか忘れた。

「や、こりゃどうも」
 コブラツイスターズが木村さんに親しげに声をかけた。
「あぁどうも。よろしくね」
 木村さんも同様に挨拶を返したけれど、ちょっと変な顔をしている。どうしたんですとこっそり訊いたら、初めて会ったのだと云う。あんまり馴れ馴れしくて、てっきり元から知り合いなのだろうと思っていたから拍子抜けした。
 コブラは拳を腰溜めにして「よぉし、やろう!」と云った。随分張り切っているらしい。

 年輩者の木村さんには事務所で電話番をしてもらい、自分とコブラともう一人とで段ボールを持って出た。
 配り初めはどうも恥ずかしいような心持ちがして、恐る恐る差し出していたけれど、予想外にみんな受け取ってくれる。ティッシュください、と駆け寄ってくる女性もあった。
 何だかいい事をしているような心持ちになって、調子に乗ってほいほい配っていたら、警備のおじさんが寄って来た。
「ここはルイヴィトンの店だから、真前で配るのは止めてください」
 おじさんはルイヴィトンの警備員らしかった。
 こちらは公道で配っているのに随分横暴な言い分だと思ったが、確かにあんまり真前ではルイヴィトンのティッシュを配布していると勘違いする人だってあるかも知れない。ヴィトンのティッシュだと思ったのに、違うんだったら返すよ、と云う人だってあるかも知れない。せっかく気持ちよく配っているのに、そうなってはつまらない。
 多分そんな人はないけれど、こちらも大人なので、わかりましたと云って立ち位置を少し変えてやった。警備員は「ごめんね」と済まなそうな顔をした。
 コブラが「はいはい、じゃんじゃん配るよ〜」とやっぱり張り切って言った。

 小一時間で全部配り終えて、コブラは帰った。
 それから間もなく自分は転職した。コブラにはこの時会ったきりである。

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