感触
それまで近所の床屋で髪を切っていたのが、高校へ入ると美容室へ行き出した。美容室もやっぱり近所の店で、元々母が行っていたのが、男の子もよく来るそうだからと勧めて来た。
おばさんが一人でやっている、住居も兼ねた小さな店だった。自分より一つか二つ下の娘がいて、おばさんも娘も子供会で見知っている。
近所のおばさんに髪型の注文をするのは何だか恥ずかしいようで、特にどうというイメージもなく行ったら、先方は「これからこういうのが流行るけど、どう?」と、随分やる気を見せて来た。
云われるまま、「じゃぁ、それで」と任せてみたら、刈り上げた上に長い髪を被せるような案配になった。そういう髪型があるらしいと聞いたことはあるが、自分がそうなるとは思いもしなかった。ツーブロックと云う名称は随分後になってから知った。
随分洒落た様子だったから、なるほどさすがは美容室だと感心した。それから実際流行ったのでますます感心した。
その後三回ぐらい行ったけれど、電話で予約を入れようとするとどうも対応が突慳貪で、「ああその日はだめ。他には?」「じゃぁ、◯日はどうで……」「その日もだめ」と食い気味に断ってきて、気分が悪いからもう行くのを止した。
横浜でパスタ屋に勤めていた頃は引越しが多く、引っ越す度に、髪を切る店を新しく探した。
横浜市内の南から北へ異動になったばかりの頃、ちょうど髪を切るタイミングだったので、バイトの津田さんに「この辺で安い美容室はないかね?」と訊いたら、「◯◯がありますよ。安いですよ」と教えてくれた。
「どう行けばいい?」
「うちの店の前の道を向うへ真っ直ぐ行ったらすぐ、右側です」
早速云われた通りに行ってみると、じきに感じの良い店が見つかった。こういう店はやっぱり女子に訊くのがいいと得心した。
料金は、カットとシャンプーで二千いくらだったと思う。その店には次の異動までしばらく通った。
ある時、カットの後で切毛を流してもらいながら、どうも違和感があるのに気が付いた。
美容室だから流す際は仰向けで、顔に布きれをかぶせてくれるのだけれど、そうして見えなくなった顔のちょうど頬ぺたに、何だか丸いものが当たっているのである。
何だろうかと思っていたら、女子スタッフが自分の頭を抱えるようにして流しながら、「痒いところはないですか?」と言った。
いいなと思ったら応援しよう!
よかったらコーヒーを奢ってください。ブレンドでいいです。