人肌

 中三でクラス委員をやった。
 本当は自分でなく大村が推薦されて過半数の票を得たのが、その場で辞退を申し出た。決まった後でそんなことを云ったってしようがないと思っていたら、どういうわけか担任の石山先生がそれを受理し、再度決め直すと云うのである。
 それで今度は百裕の名前が上がり、ほぼ満場一致で決定した。
 大村の不当に逃げたしわ寄せがこちらへ来るのでは、誰が見たって公明正大でない。自分もそんなのは受けられないと随分抗議したが、石山先生は頑なにこれを聞き入れず、結局自分がやることになった。抗議の際に怒鳴り散らしたのが不味かったのかも知れない。

 引き受けはしても、やっぱり何だか面白くない。形だけ引き受けて実務はボイコットしようかと思ったが、内申書のことを考えるとそれは得策でない。しかし、真面目にやるのは理不尽教師に負けたようで気分が悪い。
 だから任期中はずっと不貞腐れながら任務に当たった。女子クラス委員の瀬野さんは随分やりにくかったろうと思う。

 ある時、何かの決め事で各クラスの委員が集められた。
 いつものように不貞腐れながら教室に入ると、瀬野さんは既に着席し、鞄を抱えて突っ伏していた。隣に座ろうとしたところで顔を上げ、こちらを見て「あぁ」と云った。安堵したような様子だったから、どうも百の奴がサボると疑っていたのではないかと思う。
「百君、牛乳いる?」
「牛乳?」
「これ」
 瀬野さんは鞄から牛乳を取り出した。
 自分の中学では給食がなく、昼には紙パックの牛乳だけが配られた。それを飲んでいなかったか、余りをもらったか、どちらにしてもこんなところで「牛乳いる?」は唐突だ。
「……ありがとう」
 受け取って飲むと、何だか生温い。
「……ぬるい」
「あぁ、ずっと抱いとったけぇね。ごめんごめん」
 瀬野さんはそう言ってけらけら笑った。
 自分は何だか恥ずかしいような心持ちになり、しばらく瀬野さんの顔を見られなかった。


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