鶏姉さん
昔、仕事で遠方へ行って、あるイベントに参加した。自分は前入りで準備をして、翌日葛山と岩田さんと合流する段取りだった。
初日の準備完了後、ホテルにチェックインしてから外へ食事に行った。
飲食店は存外あるが、グループ客を相手にしているような店へ一人で入って居心地の悪い思いをするのはつまらない。だからといってチェーンの牛丼屋やカレー屋に入るのも嫌だ。そういうことを念頭に置きながら手頃な店を探す内、地下への階段の傍に「焼鳥」と汚い字で書かれた看板があるのを見つけた。
まずここら辺りが順当だろうと当たりをつけ、下りて行って扉を開けると、方々から「いらっしゃいませ!」と大きな声がした。
割合に広い店である。随分繁盛している。
自分はカウンター席に座ってビールを注文した。
「今日はお仕事ですか?」と、カウンターの向こうから女子店員が声をかけて来た。
「仕事だけれどね、何、今日のは遊びのようなものですよ」
お薦めを三品四品見繕ってもらい、焼酎をぐいぐいやっていたら、じきにしたたか酔っ払った。
それでさっきの女子に云って会計を済ませ、店を出た。カウンター女子が階段の上まで見送ってくれた。
随分美味かったのでまた行こうと思い、翌日葛山と岩田さんにその話をしたら、カウンター女子のくだりで葛山がニヤリと笑った。
「それ、お姉ちゃん系の店でしょう。焼鳥キャバクラとか」
「いや、違う。普通の焼鳥屋だよ。帰りにお見送りされたけど」
「ほら、やっぱり」
いよいよニタニタ笑う。
「違う。全体、焼鳥キャバクラなんて聞いたこともないぜ?」
「『焼きキャバ』ですよ」
葛山はやっぱりニヤニヤしている。
「とりあえず、今晩行こうじゃないか。行けばわかる」
「いいですよ」
すると横から岩田さんが、「鶏は……僕は勘弁してほしいなぁ……」と言った。
子供の頃養鶏場の近くに住んでいて、首を落とされた鶏が血を噴き上げながら三歩四歩と歩いたのを見て以来食えなくなったそうだ。
興ざめしたが、チームの一番えらい人だから従わざるを得ない。結局その晩は三人で、チェーンの居酒屋に行った。
「焼鳥キャバクラ、行ってみたかったですよ」
岩田さんと別れてホテルへ戻る途中、並んで歩きながら葛山がぽつりと言った。
「今から行くのはもう、腹がきつい」
「そうですねぇ」
「あと、焼きキャバじゃぁない」
「ふふふ」
それから駐車場へ張られていた鎖に引っかかって、二人同時にこけた。信号待ちの車から笑われた気がした。
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