焼き飯と原田
ある時サークルでTAROの焼き飯の話になった。TAROは学生街の喫茶店で、焼き飯の味に特徴があった。自分はTAROへ行くとその焼き飯を二回に一回の割合でオーダーしていた。
「あの焼き飯は焼き肉のタレの味ですよ」と原田がしたり顔をする。原田は一つ下の後輩である。
「焼き肉のタレ?」
「そうです。あの味はきっとそうです。間違いありません」
焼き肉のタレとは思い付かなかったが、考えてみれば自分はあんまり焼き肉を食べた覚えがない。それではタレの味だと気付かないのも無理はない。原田はどうも金持ちの坊っちゃんらしいから、焼き肉だって食べ慣れているのだろう。何だかちょっと腹の中がもやっとした。
帰りに駅前のスーパーで焼き肉のタレを買った。何種類かあったが、どれがTAROの焼き飯のやつですかと訊いたってわかるはずがないので、適当に選んでおいた。
そうして帰宅後に早速試した。
まずは鶏卵と玉ねぎとピーマンを炒め、白米を入れてほぐし、焼き肉のタレを混ぜながらジュ〜とやると、見た目は何だかそれっぽいのが出来上がった。
ところが、食べてみるとどうも判然しない。
どうやらTAROの焼き飯とは違うようだが、目を閉じて店の味をよくよく思い浮かべながらだと近いように感じる瞬間もある。そうかと思って気を抜くと、やっぱり全く違う味である。
合っているのか違うのか、どうにも煮え切らないが、元来同じ物はどうやったって同じはずなので、食べながら脳内で似せる努力を要するようでは、きっと同じではないだろう。タレの銘柄が違っていたかも知れないが、もう面倒くさいからタレではないと結論し、味の追求はそれぎり止した。
そうして今度原田に会ったら、あれはタレではないと云ってやるつもりになったけれど、云うのを忘れている間に原田はサークルへ顔を出さなくなった。どうやら同級生らと上手くいっていなかったらしい。その理由は何となくわかる気がした。
結局タレが違ったのか、原田が知ったかぶったのか、どちらかには違いないけれど、どちらが正しいかはとうとうわからないままである。
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