紫と黒
数ヶ月前、どういうきっかけでそうなったのかもう判然しないが、あるシャープペンシルが急に欲しくなった。ナントカ機能が付いた最新モデルではなく、その道の愛好家に昔から愛され続けるキャップ付きのペンである。
若干高めの値段だが、そう云って手が出ないほどではない。買おうと思えば普通に買える。ただ、何だか買ってもすぐに飽きそうな予感がある。
自分は貴族でないから、すぐに飽きるようでは買いたくない。やっぱり止そうと思ったが、飽きるかどうかは買ってみないとわからない。どうも気持ちが片付かない。日を追うごとにいよいよ欲しくなって来る。
よし買おう、やっぱり止そう、を繰り返していると、まるで見ていたように、ヤフーショッピングから千円分のクーポンが来た。
これを使えば千円引きである。千円引きは大盤振る舞いだ。使わないのはもったいない。よしんば買って飽きたとしても、千円引きなら収まりもつくだろう。
その翌日に、当該シャーペンが手元へ届いた。わくわくしながら開封したら、果たして随分いい感じである。
キャップに実用的なメリットはあんまり感じないが、限定色の焼き芋ボルドーが気に入って、今のところ飽きずに使っている。
中二の娘が先日、クラスの男子にシャープペンシル愛好家がいて、何かにつけてシャーペン愛を語るのが鬱陶しいと云い出した。
「その子は何を使ってるって?」
「何て言ったかな。人の名前みたいなやつ」
「キャップが付いてるやつか?」
「そうだと思う」
「これと同じやつだろう?」
自分の愛用品を見せてやったら、果たしてそれだと云う。中学生にしては随分渋好みだ。きっと親が文具好きなのだろう。
「お父さんが限定カラーの紫を使ってるって云ってやりなさい」
翌日、自分が帰宅すると、娘が何だか変な顔をして「シャープペンシル」と言った。
「何だ?」
「お父さんのペンの話をする前に、黒がかっこいい、紫はダサいって云い出したから黙っといた」
「……そうか」
「……」
やはり中学生である。自分はあの黒がいいとは一向思わない。
それぎり、この愛好家にコンタクトを取る試みは止した。
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