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氏素性

 子供の頃、祖父が使い古した財布をくれた。茶色の皮でできた小さな巾着で、長い紐が付いている。
「これをあげよう」
「何これ?」
「財布だよ。この中にお金を入れて、この紐で首から提げとけばなくさないだろう?」
「ふぅん」
 祖父が財布と云うから財布のつもりでいたけれど、財布としては使いにくい。袋の口が狭くて、小銭を出すのに指が入らないのである。だからいつもレジ前でもたつく。後ろで待っているお客にイライラされて、どうにも気が焦る。それで紙幣で払うから、小銭ばかりがポケットに増える。結局じきに使わなくなった。
 どうも本当は財布じゃないのかも知れない。そう思って見ると、タグも何も付いておらず、一体何の革なのか、どこで誰が作ったか、何もわからない。
 祖父の実家は中国山地の方だったから、事によると誰かが山で狸でも捕らえて、手ずから拵えたのかも知れない。どうにも素性が知れないが、祖父がくれた物なので、使わないにせよ今でも持っている。

 十年ぐらい前、イベント出展で中国へ行った。
 現地で得意先の王さんと話しながら設営作業を見ていると、職人の中に何だか異彩を放つおじさんがいるのである。
 何しろ人相がいい。常にニコニコしている。元々そういう顔なのか、実際に笑ってるのか判然しないけれど、あれを直せ、ここを変えろ、やっぱりさっきのに戻してくれ、という要望にニコニコしながら対応する。随分味のあるおじさんだ。
 当人だけでなく、彼が使う脚立もいい味を出している。黒ペンキ塗りのゴツゴツしたやつで、大量生産品の感じがしない。
 それは自分で溶接したのかと訊いてみたかったが、言葉がわからず、タイミングも掴めなくて、ついに訊かないままだった。

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