嫌いなものの話
もう随分以前になるけれど、初めて車で名古屋から帰省した際、途中で脇毛に出くわした。
渋滞を避けて夜中に出発し、眠気覚ましの珈琲を買いにサービスエリアへ入ったら、冷蔵庫の前で異人女子が飲み物を物色している。
自分は、彼女が選び終えるまで後ろに並んで待っていたが、じきに違和感に気が付いた。お茶を取ったりジュースを取ったりするたびに、ノースリーブを着た腋の辺りから何だかチョロチョロしたのが顔を出す。一体何だとは考えるまでもない。腋毛なのである。
異国には剃らない人もあるとは聞いていたが、本物を目の当たりにしたのは初めてだった。余計なお世話は重々承知で、若い女子が腋毛を生やしているということが、自分にはどうも落ち着かないように思われた。
全体自分は、腋毛が嫌いである。暑苦しくて臭そうで、そもそも見苦しい。「腋」という字を見ただけで、胸中が何だかもわもわする。
今時あんなものが人体に生えてくる意味がわからない。甚だ不明瞭だ。
不明瞭なまま生えてくるなら、庭の雑草と同じである。雑草だったら引き抜くが、脇毛は抜くと痛い。だからなかなかそういうわけにもいかない。それがどうも、もどかしい。
女性は剃ってしまう人が多いだろうが、男の場合は見苦しくたって、無くしてしまうのも変な気がする。
だから結局、嫌だなぁと思いながら今のところは剃らずにいる。幸いそんなに濃くないから、どうにか無視できている。
大阪で大学生になってじきに、夏の暑さに辟易した。何もしなくても汗だくになる。
こんな汗だくではきっと臭いに違いないと考えて、ある時制汗剤を買って来た。
出かける前に腋へシュッとやり、これで大丈夫と心安らかに外出したら、果たしてすぐに汗だくになった。平気なのは腋ばかりで、肩や胸にはやっぱり汗をかくのである。
それで肩と胸にシュッとやっても、背中と首に汗をかく。どうもきりがない。血を吐きながら続ける苦しいマラソンのようだと思い、そのまま使うのをよしてしまった。
新千歳空港展望台にて、飛行機を眺めながら。
こちらの企画から「制汗剤」のお題をいただきました。

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代表作『牛おばさん』とその後日譚(書き下ろし)、違和感と余韻を残す随筆集『いつか見た情景一・二』、不思議な話・気持ちの悪い話を集めた『ここではないどこか』の4部構成。
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