音と時間
高校の修学旅行は、ほとんどずっとイヤホンで音楽を聴いていたからか、どこで何をしたのかほとんど覚えがない。覚えているのは同室の上野がひどい鼾をかいたことである。
初めはすうすう云っていたのが、段々音に濁りが入ってきて、終いにゴォゴォ云い出した。音色の変化に伴って音量も急に上がったものだから、周りはとても寝られたものではない。
「こいつ、まじか」
「寝れんで」
同室の数名が全員起き出した。
鼾の当人だけがすやすや眠っているのが、どうも憎たらしい。どうしたものかと覗き込んでいたら、不意に上野が笑い出した。
「ぷっ、ふふふ、ごめんごめん、けらけらけら」
他人の睡眠を邪魔しておいて、笑い出すとはおかしなやつだと感心した。
以前、ETCカードで高速道路を随分安く走れた時期があった。ちょうど車を買い換えてETCを付けたところだったから、休みの日に大阪へ行って、昔のメンバーとバンドを再開することにした。
その時分には毎年秋の連休にサークルのOBイベントが開催されていた。せっかくだからそれに出ようと云うことになったのだけれど、自分は噂に聞いていただけで、観たこともない。色々訊いていく内に、主催者は内山君だとわかったが、随分下の後輩らしく、全く知らない相手である。
「誰か、知ってるか?」
「知らん」
「会ったこともない」
これではどうも埒が明かない。
「どうにか連絡がつかんかね?」と言ったら、一番年若のタイガーが「後輩の伝手を辿ってみますよ」と立ち上がった。
「やってくれるか、タイガー」
「頼んだぞ、タイガー」
「タイガー」
実に十年ぶりのステージで、甚だ気分が良かったものだから、打ち上げでだらだら飲んでいたら、終電がなくなった。これでは名古屋へ帰れない。やむを得ず、始発まで寝るつもりでネットカフェに行った。
そうしてブースに入ると、じきに誰かの鼾がゴォゴォ聞こえてきた。最初は気になったが、こちらは疲れて酒も入っている。じきにうとうとしかけたところで、誰かが「うるせぇぞ!」と怒鳴った。
その声ではっと目覚めたら、もう始発の出る時間だった。
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