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池と眼球

 学校帰りに、池の畔を先生と歩いていた。
 先生と云っても教師ではなく、医師である。もっともそれは後になってからのことで、この時はまだ二人とも中学生だから、詰襟の学生服を着ている。
 この池へは、小学生の頃に友達とよく釣りに来た。釣れるのは大抵鮒だけれど、一度亀が釣れたことがある。餌に食いついたのではなく、泳いでいたのがたまたま針に引っかかったのである。何だか鮒の引きとは違うようだと思いながら引き上げて、水面に亀が現れたのは驚いた。
 それを見て、「おぉ、凄いのお。亀が釣れるんか」と知らない子が言って来たので、事によるとあの子が先生だったようにも思うが多分違う。

 先生は早口なので、よほど注意しておかなければ何を云っているのかわからない。
「眼球の中のね、ゼリー状の硝子体が加齢とともに硬くなって、萎んでくる。その時に奥にある網膜が引っ張られて破れる。これが網膜剥離です」
 その説明は去年聞いた。それで一緒に歩いているのが先生だとわかった。
 あの時は何だか飛蚊症が酷くなって、視界の半分ぐらいが黒いもやもやで覆われたから怖くなって眼科へ行ったのである。
 この先生が先刻の説明をした後、レーザーを使った手術で上手く片付けてくれたので、大事には至らずに済んだ。しかしまさか同郷の同級生だとは思わなかった。
「あの時はお世話になりました」
「え?」
 未来のお礼を過去で言っているのでは、話がこじれるばかりだろう。
 池を離れて、小児科医院の塀際に大きなウシガエルが死んでいた。手足を伸ばしてだらんとしている。
「蛙が死んどるねぇ」
「ほんとじゃねぇ」
 先生の家は小児科医の隣だった。
「ほいじゃぁ、また」
 先生はそう言って玄関へ入った。
 少し歩いて振り返ると、二階の窓から顔を半分出して、先生がこちらを覗いていた。


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