やみ駅再訪
自分の地元の町には駅がなく、電車に乗る時はバスで隣町の駅まで行った。
広島市内へ出るにはバスで真っ直ぐ行くよりそうやってバスと電車を乗り継ぐのがいくらか安上がりだったようだが、そんなに頻繁に行くわけでもなく、バス停から駅までが遠かったのもあって、母に連れられて市内へ出る時はいつもバスだった。
自分が電車を使い始めたのは中学校に上がって友達同士で市内まで遠出するようになってからである。
ある時、上野と一緒に市内へ出ることになった。
「やみ駅から電車で行こうや。その方が安いんよ」と上野が言うので、
「ほいじゃぁそうしようか」と答えたけれど、自分はやみ駅がどこにあるのか知らない。それで案内されるまま、バスを降りて歩いた。
中古車屋と医院の間を抜けて、川を渡り、じきに田んぼの畦道に出たが、駅はまだ見えない。
「まだ先なん?」
「もうちょっとじゃねぇ」
こじんまりした商店街みたいな通りを横切り、また川を渡った。
全体どこまで連れて行かれるんだろうか、このまま戻れなくなるんじゃなかろうか、事によると、上野の野郎、自分を知らない土地に置き去りにして逃げるつもりじゃないか知らと疑い始めた頃、神社の裏手に出た。そこから急に道が広くなり、前方に駅らしき建物が見えた。
「あそこが駅よ」
上野が指差して振り返った。ここまで来ればもう見えていると思った。
駅舎に入るとそこは待合室で、正面が改札になっている。左手に券売機がある。右手の壁際にベンチが設えてあり、じいさんばあさんがのんびり座っている。ベンチの隣にはコカコーラの赤い自販機が設置してあった。
「ほいじゃぁ、行こうか」
上野に促されて改札を通った。その当時はまだ自動改札などないから、駅員に切符を渡してパチンとやってもらうのである。
駅員は目深に被った帽子の下で、無表情なまま切符をパチンとやった。
先日、仕事で関東の奥地へ行った。得意先の担当者が商品説明会の講師として来て欲しいというので、いいですよと軽く請け合ったら、随分辺鄙な場所を指定され、やっぱり嫌ですと云うわけにもいかないから、仕方なく苦虫を噛み潰したような顔をしながら行くことにしたのである。
東京の端の方から電車に乗り、一時間と少々揺られる内に線路が単線になった。窓外は随分緑の多い眺めである。一体どんな辺境へ連れて行かれるかと思っていたら、じきに着いた。
果たして周りは緑一色である。
ホームに降りると、激しい既視感があった。昭和の空気が随分濃い。
これは現世かと疑いながら跨線橋を渡って改札へ行くと、そこはやみ駅だった。
改札を抜けると右手に券売機があり、左手にコカコーラの赤い券売機とベンチがある。ベンチに座っている老人らも、昔やみ駅にいたのと同じ人だった。
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