着物と火事
小島を訪ねて船島団地へ行ったが、車を駐める場所がない。団地の中をグルグル回ると空いたスペースはいくらもあるけれど、駐めようとすると住人が寄って来て、窓をコンコンやるのである。
「はい?」
「ここは駐車、駄目ですよ」
「……そうですか」
同じやりとりを別の場所で三度繰り返した。駐める時にはいないのに、駐めたと思うと現れる。どこから見ているものだか知らないが、ドウモ甚だ気色が悪い。
それでトウトウ団地の中は諦めて、隣の船島マーケットの駐車場に入った。ここなら住人も文句はないだろう。尤モ、店の人には怒られる。
だから自分はお客のような顔をして車を降り、店の人に見つからないよう気をつけながら小島の住む四号棟へ向かった。
四号棟は五階の一部屋が黒焦ゲになっていた。ドウモ火事があったようだが、それが小島の住まいの真上なのである。
小島は大丈夫だったんだろうか……。
小島の四〇一号室へ階段を登ると、玄関傍に女の子がいた。小三ぐらいで髪が長く、着物を着ている。それが壁に向かい、黙って立っている。
ドウモこの世の者ではなさそうに思われる。自分は見なかったことにして呼び鈴を鳴らし、招じられるまま中へ入った。女の子はやはり黙って立ったままである。
部屋に入ると小島は寝転がってテレビを見ながらダラダラしていた。
「おぅ、百。久しぶりじゃァないか」
「久しぶりだが、上の部屋はどうしたンだ?」
「上? アァ、火事だよ」
「大丈夫だったのか?」
「うちは大丈夫だったよ。上は、人が亡くなったけどな」
「そうなのか。亡くなったのはもしかして小学生の女の子じゃァなかろうね?」
「違う。老夫婦とその息子だよ。夫婦は焼死で、息子はベランダから飛び降りた」
「飛び降りた?」
「火から逃げようとしたんだろう」
「ここのベランダに逃げられなかったのかな?」
「やりようによっては入って来れたかも知れンがね、動転してて気が付かなかったのかな……。何しろ、その時うちはみんな出かけていたんだよ」
キット、壁伝いに下の階のベランダへ逃げ込むつもりで誤って落ちたものだろう。ドウモ気分の悪い話だが、ソウすると玄関傍の女の子がイヨイヨ不思議である。
「実は、玄関前に女の子がいたんだが……」
「アァ、それは娘の友達だよ。オイ、いつまでアイちゃん待たせてるんだ?」
すると奥の部屋から、同じぐらいの女の子が出て来た。小島の娘なのだろう。
「今行くところよ」
ところが小島の娘は普通のトレーナーとスカート姿である。友達と遊ぶのに、一人ダケが着物で来るとは面妖極まりない。
それでも小島の娘は出て行って、玄関から女の子の話し声が聞こえた。チャント二人分の声がしたから、ヤッパリ幽霊ではないのだろう。二人ともじきに階段を下りて行ったらしい。
用事を済ませて階段を降りると、正面の公園に小島の娘と着物の少女がいた。二人で何ダカ喋っているけれど、速回し再生のようなスピードで、何を云っているのかまるでわからない。
着物の少女が喋りながらこちらを見て、ゆっくり目を細めた。
自分はモウ一度、黒焦ゲの五階を見上げた。
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