Photo by
ginza1107
竹藪の家
引っ越したばかりの頃、近所を散歩していたら、竹藪の中に家があった。薄汚れた襤褸家で、人が住んでいる様子はない。こういう小屋を見つけた小学生が中を覗いたら母親が首を吊って死んでいたという怪談を思い出して、何だかぞわぞわした。
それから竹藪の前を通るたび、あの家の中がどうなっているんだろうかと気になって、いつもぞわぞわした。
ある時、何かの職人がやって来て、竹を全部切り払った。おかげで襤褸家は白日の下に露わになった。
これでは随分つまらない。全体、趣がない。竹藪の中の襤褸屋だから良かったのである。持ち主は随分情趣を解さない人物に違いない。自分は大いにがっかりした。
数日後、仕事帰りに通りかかると、この家に灯りが点いていた。まだ電気が来ていたのかと思った。
柱と板壁の間に隙間が空いており、中の様子が少し見える。ちょうど通り側がキッチンだったようで、グラスが逆さに置かれ、フライパンがぶら下がっている。反対の壁にカレンダーが貼ってあるのも見えた。奥の部屋ではテレビ点いているらしく、窓の磨りガラス越しに青い光がもやもやしていた。今でも普通に生活しているような雰囲気がある。
なぜだか祖母の家が脳裏に浮かんだ。祖母は従姉弟らが集まった時には、台所でちらし寿司を作った。その酢飯の匂いを思い出し、懐かしいような不思議な心持ちになったところで、隙間から中の人と目が合った。
「……」
「……」
中にいたのが亡くなった祖母や、異形の者なら随分面白かったが、あいにくただのおじさんだった。
自分はそのおじさんと数瞬見つめ合い、何か云われる前に速足で逃げた。
それからじきに、家は解体された。後には建売住宅が二軒できた。
いいなと思ったら応援しよう!
よかったらコーヒーを奢ってください。ブレンドでいいです。