階段の裏
大学に通うようになって、土地成金の経営する学生寮に住んだ。大阪の大学へ入ると決まったのが三月半ばで、これから部屋を探すのも大変だと、母がそちらに住んでいる従姉妹に相談したら、その寮に口を利いてくれたのである。
学生寮なら同じ学校の者もいるだろうと思ったが、女子の先輩が一人いるきりだった。当時既に学生寮という施設自体があんまり選ばれなくなっていたらしい。バブル期の終わり頃である。
玄関に向かって左手に、ジュースの自販機が二台あった。一つはコカ・コーラで、もう一つはダイドーである。ダイドーの方には数字が揃うくじが付いており、何度か当たった。自販機のくじで一度ならず当たったと云うと感心されるが、同じ顔ぶれで毎日買っているのだから、当たらない方が呪われている。
玄関から上がると、じきに食堂がある。この食堂には家具調テレビが置いてあった。
家具調と云うのは、筐体が木目調のパネルでできているのである。形は大きいが、画面サイズは二十インチもなかったのではないかと思う。
食堂手前の廊下を左に行くとトイレが二つあり、突き当たりが勝手口である。右に行くと寮生の部屋が並んでいる。自分の部屋もこの廊下沿いだった。
この廊下に赤いジャンパーを着た幽霊が出るという噂だったが、自分は会ったことがない。
ある時寮生同士で集まって、そのまま雑魚寝をしたら、朝になっても浜川が中々起きない。
「おい、起きろ」と散々揺すってようやく起こすと、浜川は「金縛りに遭っていた」と困った顔をした。
金縛りとは人聞きの悪いことを云うやつだ。部屋の主が何ともないのに、遊びに来た者が勝手に金縛られて困るようではつまらない。
自分の方ではそう思ったが、果たして浜川もそれから夜には遊びに来なくなった。
話を玄関付近に戻す。
廊下の手前に階段があった。踊り場がなく、随分急勾配で、何だか新選組と長州藩士が戦いそうな按配だった。
この階段は玄関から見て右側にあった。そんな所に階段があれば、その裏側のスペースはどうしていたろうと思う。食堂の先にあるもう一つの階段裏はゴミ置き場だったが、こちらの赤ジャンパー廊下のゴミ置き場は別の場所だった。
どうしていたろうと記憶を辿っても、どうにも思い出せないので、気がかりでいけない。
こちらの企画から、「階段」を拝借しました。
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