傘と皿
小学校から傘を差して帰る途中で松山君に出くわした。
松山君は妙な傘を差していた。骨が全部上を向き、柄の上に大きな皿を乗せているような按配なのである。
「松山君、それどうやったん?」
「これ?」松山君は一度傘を元に戻し、開いたままで野球のバットのようにブンと振った。傘がまた、柄の上で皿のようになった。「こうやるんよ」
それで自分もブンとやってみたが、一部分が裏返るだけで、それもすぐにぴょんと元へ戻ってしまう。どうも松山君のように上手くいかない。
「新しい傘じゃったらやりにくいよ」と、松山君は気の毒そうな顔をした。
「そうなん?」
「うん。骨がまだ硬いんよ」
「へぇ〜」
傘が古くなって骨が柔らかくなるとはどうも得心がいかないが、そんなことを云ってもしようがない。
それから三回ばかりブンを試したが、やっぱり上手くいかないので諦めた。
「このまま雨を溜めながら帰ろう」と、松山君が歩き出したので、自分も並んで歩いた。
「あらあら、傘がどうなっとるんね? 大丈夫?」と、知らないおかみさんが困ったような顔をした。
「雨が垂れて来んけぇ、こっちの方がええんよ」と、松山君は屁理屈を言う。
するとおかみさんは「ホンマねぇ」と笑いながら、今度は呆れたような顔をした。
自分は段々、松山君の傘が羨ましくなった。
おかみさんとすれ違ってすぐ、松山君の傘はぴょんと戻った。雨はほとんど溜まっていなかった。
先日の台風で名古屋にも雨が降り、傘を差して出勤したら、風で何度か傘が裏返った。それで松山君のことを思い出した。
こちらの企画から「傘」のお題を拝借しました。

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