峠の蕎麦屋
柳田は白くて平べったい顔をしていた。そうして黒子が多かった。小中学校で一緒だったけれど、中二で同じクラスになった他は関わることが一向なかった。同じクラスだった間も交友グループが違っていて、口をきいたこともほとんどないと思う。要は接点がなかったので、別段嫌いだったわけではないが、これまで関わることなく生きてきた。それでも柳田の家は、自分の幼馴染の小佐田より近所なのである。
「百君は、柳田とは関わりあったかいね?」
年末、居酒屋のカウンター席で小佐田が柳田の話をし始めた。
「柳田は隣町の方へ行く峠道で中古車屋やっとるんで」
その道沿いに中古車屋はもう一軒あるが、外車をたくさん置いている方が柳田の店なのだそうだ。
その店だったら帰省の行き帰りにいつも前を通るので知っている。こんな人里離れた山中の峠道で車を買う人があるんだろうかと、見る度に思っていたのである。
「あれか。まさか同級生の店とは知らんかった。あんな所で商売になるんかいね?」
「もう何年もやっとるよ」
「確かに、大分前からあるけどねぇ」
「今は中古車屋もまずネットで探すけぇ、立地はあんまり関係ないんじゃないかねぇ」
小佐田は何だか適当なことを言う。
その峠道には蕎麦屋もあった。
蕎麦屋はネットでと云うわけにもそうもいかないだろう。果たして繁盛しているようには見えないが、その割にこちらもずっと残っている。事によると、知る人ぞ知る名店なのかも知れない。
一度入ってみたくはあるけれど、実家に帰る時はもうじき着くのにこんな所で蕎麦を食おうという気にならない。帰省中はそんな辺鄙な場所へ蕎麦を食いに行こうと思わない。名古屋へ戻る時は出発したばかりで蕎麦を食おうと思わない。だから一度も入ったことがない。
元々交友のなかった同級生の車屋よりも、この蕎麦屋の方がよほど身近に感じられ、そんなことを考え始めたらまた気になって、段々片付かない心持ちがした。
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