消える文字
財布を代えるので中身を出したら、古いレシートが現れた。随分前にもらったようで、印字がほとんど消えている。部分的に判読してみると、どうも仕事で経費を立て替えた分らしかった。
自分は精算申請をしたレシートには日付を記入することにしているが、このレシートにはそれがない。だから恐らく精算漏れである。
今さら云ってももう遅い。そもそも金額が消えていては申請のしようもない。それで精算は諦めた。
全体、感熱紙はつまらない。印字が消えるなど、記録媒体として立ち位置を見失っていると云う他ない。
パスタ屋で店長をしていた当時、店舗のファックス機が感熱紙を使うタイプだった。
ある時、ブロックマネージャーの臨店中に本部からクレーム連絡のファックスが届いた。
このファックスを最初に見たのがマネージャーだった。
「店長、クレーム連絡が来てるぞ」
「う〜わ、まじですか……」
「お客さんが経緯の説明を希望されてるから、すぐ確認して行ってこい」
そう云って手渡されたのを見ると、肝心の住所がわからない。きっと記載されているはずのところへピンクのマーカーが引いてあるが、そこには何らの文字もない。
マネージャーはその頃ピンクの蛍光マーカーを気に入っていたようで、何かにつけてピンクの線を引いた。
それがこのファックスを見て、すわこそ出番とばかりに住所へマークした結果、インクと感熱紙の化学反応が発生し、まんまと文字が消えたらしかった。
「マネージャー、このピンクのは?」
「ん? マークしといたぞ」
「いや、マークで字が消えてます」
「はぁ? そんなことがあるか。見せてみろ」
マネージャーは自身の蛇足を毫も疑わない。
「これです」
「……」
「……」
「……」
「……ね?」
「……本部の酒井さんに電話して、もう一回送ってもらえ……」
自分は何だか釈然としなかったが、云われた通り本部へ電話をした。そうして「マネージャーがマーカーで塗り潰したのでもう一度送ってください」と言ったら、電話の向こうで「塗り潰した?」と酒井さんが頓狂な声をした。
それで幾分気が晴れた。
こちらの企画から、『レシート』のお題を拝借しました。
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