水と悪意
自分は傘を差し、県営住宅の前を歩いていた。十メートルばかり前を、何だか変な格好をした男が女連れでだらだら歩いている。
男の頭髪は黄色かったが、天辺の毛は黒い。パステルピンクのジャンパーを着て、ズボンを随分下げて穿いている。そうして肩を揺すりながらガニ股でざりざり歩く。
女の方は黒ずくめで、変に茶色い髪がパサパサしている。歩き方は普通だが、変なガニ股と一緒にいるぐらいだから、こちらもあんまり好い筋の者ではないだろう。
変な男女は何がおかしいのか、へらへら笑いながらガニ股でざりざり歩く。
雨が止んだようなので、自分は傘を畳んだ。すると後ろから車がすぅと来て、減速せずに走り抜けた。歩道のない狭い道だから少し驚いた。
車はそのまま進み、今度は変な二人連れの傍をやっぱり減速しないで走り去った。
と同時に、変な男と黒い女にびしゃりと汚水が降り注いだ。車が水たまりを踏んだのである。
「きゃ!」
「おわ!」
後ろから見ていてもそれとわかる、随分な水のかかりようだった。あれは冷たいだろう、随分難儀なことだ、と自分は思った。
「え〜、まじぃ?」
「おいっ! 謝れぇ!」
男が道の真ん中に踏み出して、車に怒鳴る。ところが車はにべもない。一向停まる気配もなく、そのまますぅと走り去った。
「こるるるるるるらぁぁぁ!」
男が今度は意味をなさない大声をした。そうして「くそバカが……」と吐き捨てた。
自分は後ろで、笑いを堪えるのに必死であった。
こちらの企画から「水たまり」のお題を拝借しました。

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