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濡れ衣

 毎朝の通勤で、最寄り駅まで自転車で行っている。もう随分古い自転車で、鍵が錆び付いて動かないから、駐輪場では赤いワイヤーロックを付けていたけれど、その鍵を先日失くした。
 小さな鍵だから落としてもきっと気付かない。いずれ適当なキーホルダーを付けてやろうと思いながらそのままにしていたのを、とうとう落としたのである。ポケットにハンカチと一緒に入れていたのがいけなかった。
 いずれという日は、とうとう来ないままだった。
 駐輪場で気が付いて、ポケットを裏返したけれど、ないものはない。しようがないからその日は歩いて帰り、次の日はニッパーを鞄に入れて行ってワイヤーを切断した。
 高校時代、級友の鏑木かぶらぎが自転車の鍵を失くした際、竹本が随分手際よくワイヤーロックを切ってくれたのだと、大いに感心していた。竹本は半グレだったからそういうことにも慣れていたのだろう。自分は半グレではなかったけれど、あの時に聞いた要領でやれば何とかなるだろうと思っていたら、予想よりも随分大変だった。
 鉄線が硬くて切れないのである。しようがないから、何本も撚り合わせてあるのをちょっとずつパチンパチンと切っていたら、後から来た男が何だかチラチラ見ているようである。自転車泥棒と思われたのかも知れない。
 泥棒ではないですよとわざわざ云うのも面倒なので、無視してコツコツ切断し、ようやく切り終えて帰ろうとしたら、男は駐輪場の前でスマホをいじっていた。
 こいつ、もしかして自転車泥棒を撮影して通報するつもりではないか知ら。そう思ったら急に腹が立った。
「おい、通報したら殺すぞ」
 と言いかけて、すんでのところで止した。

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