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最強の陰キャ論:お前はうちの娘と妻より面白いのか?

私にとって「春」という季節は、どうにもこうにも宙ぶらりんな心地がしてならない。受験という巨大なプレッシャーから解放され、かといって新生活という地面にしっかりと足がついているわけでもない。そんな無重力状態の中で、私はぼんやりと自分の立ち位置を眺めるのである。

1. 「もったいない」という名の余計なお世話

先日、友人から「バンドをまたやらないか」という誘いを受けた。
私は一通りの楽器が弾ける。歌も歌えるし、ドラムも叩ける。ギターだってピアノだってできる。客観的に見れば、それなりに使い勝手の良いマルチプレイヤーというわけだ。友人は「その才能を眠らせておくのはもったいない」と、いかにも正論めいた顔をして私を説得しにかかってきた。
しかし、私からすれば「もったいない」のは私の才能ではなく、彼が提案するその「時間」の方である。
バンドの練習でスタジオにこもる四時間。その間に、私の娘は確実に身長を伸ばし、新しい言葉を覚え、人間として刻一刻とアップデートを繰り返しているのだ。
ベースの弦を弾いて「今日のグルーヴは最高だ」などと悦に浸っている暇があったら、私は娘の「一ミリの成長」という名の、世界で一番贅沢なライブを最前列で鑑賞したい。二度とアンコールが効かないそのステージを見届ける特権を捨ててまで、なぜわざわざアンプのノイズを聞きに行かなければならないのか。
結局のところ、私の才能が不法投棄されていようがいまいが、娘が元気に育つ様子に比べれば、それは道端に落ちている石ころほどの価値もないのである。

2. 「陽」の重力に抗う、陰キャの矜持

世の中には「陽キャ」と呼ばれる、驚異的なバイタリティの持ち主たちが存在する。
彼らは休日になると、わざわざ数人で予定を合わせ、ゴルフ場という名の広大な芝生へ出かけ、止まっている球を棒で打つために何キロも歩く。あるいは、いつ切れるとも知れない「人脈」を補強するために、薄いハイボールを啜りながら社交辞令という名の無給残業に励むのである。
彼らが「遊び」に来ているのか、それとも「無給のコーディネーター」として過酷な労働に従事しているのか、私にはさっぱり判別がつかない。
私の休日は、それとは対照的に「静」そのものである。
一歩も外に出ず、誰の機嫌も伺わず、家で家族とダラダラ過ごす。たまに出かけるとしても、せいぜい近所の動物園かショッピングモールだ。
「もっと色々な人と話した方がいい」というアドバイスも耳にする。それは分かっているのだ。私だってそうふべきであることは知っている。
しかし私の脳内リソースは、娘の予測不能な一挙手一投足を観測するだけですでにキャパオーバーなのだ。わざわざ外の世界に面白さを探しに行く必要など、どこを探しても見当たらないのである。

3. 時速111kmという、静かなる狂気

誤解のないように言っておくが、私は決して活動的なことが嫌いなわけではない。むしろ、特定の分野においては、常軌を逸したエネルギーを注ぎ込む傾向がある。
野球未経験の三十四歳が、独学の理論だけで球速111km/hを叩き出したという事実は、その最たる例だろう。
なぜ、誰に頼まれているわけでもないのに、昼間の庭で、そして夜の寝室で、シャドウピッチングを繰り返すのか。
それは、そこに「不純なコミュニケーション」が一切介在しないからだ。
マウンド(という名の庭の段差)に立つ時、私は誰の相槌も必要としない。重力と、遠心力と、自分の筋肉。その純粋な物理法則との対話だけがそこにある。
ゴルフのように誰かとスコアを競う必要もなければ、飲み会のように相手のグラスの空きを気にする必要もない。
理想のフォームという名の「文学」を追い求め、それを111km/hという「実話」として体現する。そのプロセスにおいて、他人の存在はただのノイズでしかない。一人の時間を愛し、家族を愛する私にとって、111km/hという数字は、誰に見せるためでもない「個の証明」なのである。
無論、娘には野球をやらせるつもりだ。
娘が112km/hを投げた時、この挑戦は終わりを迎えるかもしれないが。

4. 結びに代えて

最後に、私をキラキラした外の世界へ連れ出そうとするすべての人に、一つの事実を提示しておきたい。
ディズニーランドのVIPツアーよりも、一流アーティストのライブよりも、私には帰るべき場所があるのだ。

「お前は、うちの娘と妻より面白い自信でもあるのかよ」

そんな謎の強気を胸に、私は今日もパジャマのまま娘の成長を愛で、夜の寝室で静かに111km/hの幻を見る。

ある種、寂しい生き方であるとは思う。
しかし、私にとってこのライフスタイルが今のところ、一番幸福なのである。




私が入っているメンバーシップのお教祖さまである無職先生のコンテストに参加させていただいております。

「お前の偏愛を語れ」というコンテストです。

「家族が好きすぎる」という偏愛としてもかなり偏った感じの参加の仕方になりました。
最後は別の偏愛が入っていましたが。

先生からは「応募が早すぎるだろ!」とお叱りを受けましたが、順番だけでも一番を取りたかったので。


勝ちたいなぁ。うん。

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