球体が降る夜〜namidadama【掌編小説】

今夜は球体が降る夜になりそうだ。
空気が澄んでいてひんやりとしているし、鼻の奥がツンとする。なによりも星が近くに感じられる。
きっと今夜だ。
わたしはこっそり家を出て、川の方へと向かった。
わたしの暮らす町では年に一度、秋が定着してきた頃に、たくさんの球体が降る。
球体は手のひらに収まるくらいの大きさで、ゼリーのような適度な重量感と柔軟性がある。透明度が高く、空にかざすと星空が透けて、まるで宇宙の一部を与えられたかのような錯覚に陥る。
球体が降る夜は、会いたい人に会うことができる特別な夜。
ある人は恋人に。
ある人は離れて暮らす家族に。
またある人はもう会えなくなってしまった人に。
会いたいと願って人々はここに集まる。
わたしは一年後にはきっと会えなくなるであろうあなたに、会いにきた。
あなたが家で眠っている隙に、来年の分まで会って話をしておこうと思った。
町の人たちはこの球体を「涙玉」と呼ぶ。
わたしは目の前に降ってきた「涙玉」を両手で受け止めた。
心がすうっと広がる感覚。
心細さが薄まり、さまざまな後悔が希釈されてゆく。
ただただ、大切なあなたに思いを馳せる。
どのくらいの時間そうしていただろうか。
「涙玉」は少しずつ溶け出し、指のあいだから滴りはじめた。
そろそろ川から空へ戻す時間だ。
わたしはもう大丈夫。
帰ろう、あなたの待つ家へ。
というような言い伝えがあり、今回開発したゼリーには、「namidadama〜降る夜は」と名付けました。
球状の透明ゼリーの中に星形のレモン餡を散りばめ、パッケージは星空をイメージし、商品名の由来となる短い物語を添えました。
味はほっとする甘さとぷるんとした食感、レモン餡は少し硬めに仕上げ、ほのかな酸味とともにアクセントになっています。
ご試食をお願いします。
「namidadama〜降る夜は」あなたの大切な人と、大切な時間を過ごしてほしい、そんな願いを込めて企画、開発しました。
以上です。
無事、プレゼンが終わった。
商品化も決定した。
一年前から構想を練って、やっと実現した企画だ。
わたしは嬉しくて急いで家路につく。
「ただいま」
彼が微笑みながら迎えてくれた。
わたしは彼の遺影に「namidadama〜降る夜は」を供え、手を合わせた。
これで、いつでもあなたに会える。
©️2021 ume15
